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第百八十五話 まさかのサドデス

更新おまたせいたしました。

「お前、まさかサドデスか?」


 カテリナが崖上に見える足場を見上げつつ言った。

 

 視線の先では名指しされたサドデスがニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。舌なめずりをし、カテリナだけではなく、その近くにいたハーゼにも好色な視線が向けられている。


 基本無表情な白髪の彼女であったが、それでも発せられる空気に嫌悪感がにじみ始めていた。


「なんなんっすかこれ? サドデスといったら帝国騎士の一人っすよね? それなのにどうしてそんないかにも賊といった連中とつるんでるんっすか?」

「ハッ、うるせょよ騎士にもなれなかった落ちこぼれが。コイツらは全員帝国公認の盗賊達であり、この俺の部下なんだよ口を慎め」


 は? と怪訝な顔を見せるピサロ。

 そしてそれはカテリナにしても一緒であり。


「何を馬鹿なことを。帝国公認の盗賊など聞いたことがない」

「ははっ、そりゃあんた。お前が所詮籠の中で飼われていただけのカナリアでしかなかったからさ。カテリナだけにな」

「さっぱり面白くないぞハゲデス」

「寒いっすね」

「う、うるせぇ! とにかくあんたは騎士団長なんて偉そうなこと言っちゃいるが、肝心なことは何も判ってない不自由で哀れな姫騎士ってことさ」

「――黙れハゲデス。姫様はとっくに籠の中から飛び立ち、自らの翼で羽ばたいている。お前みたいなハゲがわかったふうな口を聞くなこのハゲデス」

「お前こそ黙れこのアマ! それと俺はハゲデスじゃねぇ! サドデスだ! ついでにいえばこれはわざと剃ってんだよ! 糞が。絶対に許さねぇ。テメェも全員でしっかりやることやらせてもらうからな」

「……出来るものならやってみろ」

「ちょ、ちょっと待て! ハゲで、いやサドデスもだ!」


 カテリナも思わずハゲデスといいそうになり、奴のツルツルの頭がピクピクと波打った。


「だいたいお前はこんなところで一体何をしている? その連中が盗賊というのもそうだが、なぜ私を狙った?」

「あぁ、今のはただの忠告ですよ。姫さん、あんたこれ以上進むのは禁止だ。黙って城から抜け出すような真似しちゃ駄目でしょ。おてんばもそこまでにしてカナリアはカナリアらしくさっさと戻れよ」

「……何を言っている? そもそも私は黙ってなど出ていない。恩義のある方からの命をうけ動いているのだ」

「ほぅ、で、その命というのは?」

「お前に答える義理はない」


 カテリナははっきりと言い放つ。実際これはそのとおりであり、いくら同じ国の騎士であったとしても、任務を軽々と話すようでは団長として失格である。


「そうか、それはそれは、いやぁ良かった良かった。本当は、こんなことで素直に引き返されたらどうしようかと思ったんですよ。ま、あんたならそんなことはないと思ってましたがね。いや本当良かった。これで心置きなく前の借りを返せるし、始末も出来る」

「……始末、だと?」


 カテリナの表情が変わった。それはピサロにしてもハーゼにしても一緒であった。


「そうさ。俺たちは言われているのさ。お前ならやむなき事態で死ぬのであればそれも仕方ないってな。まぁでも安心しろよ。これまでのお返しにそっちの女も含めて、殺す前に多少はいい目に見させてやるからよ」

「さすがボスだ! こりゃたまんねぇぜ!」

「ところで一人、どうでもいい男がいるけど、あれはどうする?」

「そんなの決まってるだろ! 八つ裂きだ!」

『ヒャッハーーーーーー!』


 周囲が一気に騒がしくなり、男どもの興奮度が増し、体温が上昇。血流は股間の方に一点集中しているようであまりに見苦しい。


「あちゃ~これはもう戦闘不可避っすかね? でもサドデスは一応騎士ですしどうするっすか?」

「……関係ない。大体盗賊の頭という時点で慈悲はない」

「うむ、それは確かにそうであるが、何やら気になることも言っていた。どうやら帝国内部では私を亡き者にしようとしている連中がいるらしい。全く身に覚えがなくて困るのだがな」

「いや、そっすか?」

「……姫様、多分敵を自然と作るタイプ」

「む? 何故だ? 私は正義のために剣を振ったことはあっても、恨まれるような真似はしたことないぞ?」

「その正義が、気に食わない人がいるってことだと思うっすよ」


 ピサロが説明するが、そんなことがあるのか? とカテリナは目を白黒させていた。


 だが、それを証明する存在が今まさに目の前にいるわけである。


「なにコソコソ喋ってやがる。何を話し合ったところでこの人数差だ。テメェらに勝ち目なんてねぇよ!」

「……どうやら向こうはすっかりやる気なようだな。仕方ない。だが、サドデスは殺すなよ」

「了解っす!」

「……ゲスな男は死んだほうがいい、でもアイツだけ殺さないようにはする」


 首肯し、先ずはピサロが飛び出し、槍を地面に突き刺し、そのまま足場を見下ろす高さまで飛び上がった。


「な、なんだこいつ!」

「高さがあるぞ!」

「馬鹿、だったら弓で狙い撃て!」


 慌てて弓矢を構え始める盗賊たち。だが、連中はピサロの落下速度を甘く見ていた。


「竜襲落っす!」


 空中を蹴り、急降下し槍で強襲する。矢が射られるよりずっと早く着地と攻撃を同時に決め、周囲にいた何人かが飛ばされ足場の下に投げ出される。


「真空無双独楽!」


 更に槍を支点にグルグルと回転しながらの蹴りの連打。蹴り飛ばされた賊共も足場の外に飛ばされていく。


「てめぇ!」

「お?」

「おお! さすがボスだ!」


 しかし、回転途中でサドデスが割り込み、ピサロの足の膝部分に腕を回しガッチリホールドしてしまう。


「このまま骨ごとぶっ壊してやる」

「ありゃ、これはもしかしてちょっとピンチっすか?」

「当たり前だ! 貰うぜ!」

「やっぱゴメンっす!」


 支点にしていた槍を持ち上げ、サドデスに向かって刺突する。


「舐めるな!」


 だが、サドデスはもう片方の腕で槍を受け止めた。にやりと笑みを浮かべるが、そこに今度はピサロの蹴りが炸裂。


 右足を封じられても左足が残っていた。それを連続で蹴り込んでいく。


「うむ、ピサロだけで行けそうに見えたが、難しそうか」


 すると、ついにカテリナも剣を構えるが。


「……姫様は見てる。私がやる」


 カテリナを制するようにハーゼが述べ、マントの中から術式の刻まれた細長い筒を六本取り出した。


「……ピサロはドジ、馬鹿、マヌケ」

「酷い言われようっす!」

「……だから、私がやる。爆炎筒六連――」


 けたたましい音が鳴り響く。ハーゼが取り出した銀色の筒から、メラメラと燃え盛る炎の玉が発射された。その数は指に挟まった数と一緒の六発。


 それがすべて、盗賊とピサロがいる足場に命中。派手な爆発により――足場が粉々に砕けた。


「チッ――」

「な、何考えてるっすか! 俺もいるっすよ!」

「それで死ぬなら所詮その程度」

「ひど!」


 相変わらずなふたりだが、意外にも信頼しあっているということでもあるかもしれない。

 

 実際ピサロは空中で体勢を立て直し見事着地し、すぐに飛び退き、ふたりの近くにまで戻った。


「……チッ」

「なんで舌打ちするっすか!」

「それにしても、派手にやったものだな」


 足場が崩れたおかげで、その真下に当たる場所は土砂崩れでも起きたかのような状況に。


「これ、完全に通行止めになったっすよね? この先進めないじゃないっすか! どうすんっすか!」

「……そこまで考えてなかった」

「無責任っす!」

「……黙れ」

「いやハーゼ。ここは私達だけが通るわけじゃないからな。このままというわけにはいかんぞ?」

「申し訳ありません姫様。ですがご安心を、この程度はすぐに爆破して排除できますので」


 ピサロに対する態度と全く異なり、殊勝な様子を見せるハーゼ。尤も言っていることは大分めちゃくちゃだが。


「でもここまでやっちゃうとあいつら全滅間違いないっすね。サドデスも死んでるんじゃ――」

「ウオオォオオオォオオォオオォオオオォオオオ!」


 だが、そんなピサロの考えを嘲笑うかのように、土砂が派手に吹っ飛んだ。ついでに、土砂に埋まっていた盗賊達も肉ミンチになって飛散していく。


「……大丈夫っぽいぞ。あと、土砂をふっとばす手間が省けた」

「とんでもないっすね。あのハゲ、あんなに無茶苦茶だったっすか?」

「いや、驚きだな。以前より大分強くなっているとは思ったが、ここにきて更にパワーアップした気がするぞ」

「ヌハハハハハッ! 当然よ! 何せこの俺様は人を凌駕する力を手にしたのだからな!」


 ほう、とカテリナがサドデスを見やる。全身が赤熱したようになっており、確かにこれまでと大きく雰囲気が変化していた。


「それにしても仲間すら纏めて吹っ飛ばすとは呆れたやつだ。まだ生きていた者もいたのかもしれないのだぞ?」

「ふん、あんな弱い連中知ったことか! 少しは使えるかと思ったがな。今の俺からすれば邪魔なお荷物でしかない」

「お前が一番お荷物だという考えはないのか?」

「黙れよ――今からその減らず口を聞けなくさせてやる。見ろこれを!」


 するとサドデスは何やら透明な液体の入った細長い瓶を取り出した。


「何だそれは?」

「くくっ、これは俺が特別に手に入れた魔薬。さっき一本は飲んだが、後二本も残っている。俺はそのもう一本を、飲む!」


 瓶を傾け、中身を一気に呷る。


「ぷはぁ~おおぉお、キタキタキターーーー!」

 

 興奮し盛りがついたような声を上げる。すると、その様相に変化。筋肉が盛り上がり、体中に太い血管が浮かび上がりピクピクと波打つ。


「……全く恐れ入ったぞ」

「ぬはは、そうだろうそうだろう。パワーアップした俺を見て、震えが止まらないか?」

「あぁ、全く色んな意味で驚きだ。突然気配が変わったかと思ったが、まさかそんな物に頼っていたとはな。見下げた根性であるぞ。しかもその姿、まるで化物ではないか。それがお前の望んだものだとしたらあまりに愚かだ」

「なん、だ、と?」


 サドデスの目が大きく見開かれる。だが、彼は気がついていない。確かにパワーアップはしている。その為か、肉体的にも三倍ぐらいにまで肥大化した。


 だが、それほどまでの急激な強化を行った故か、顔の骨格からして大きく変化し、目玉も半分ほど飛び出たような状態に陥っている。


 その様相は確かに化物、人間をやめた者のソレであった――

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