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現代で忍者やってた俺が、召喚された異世界では最低クラスの無職だった  作者: 空地 大乃
第三章 水滸海賊団編

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第百八十六話 サドデスの変身

 魔薬の力を借り、サドデスが化物じみた姿に変化した。だが、カテリナは薬に頼ったその強さを認めること無く、呆れた顔で愚かだと言い放つ。


「黙れ黙れ黙れーーーー! 俺は絶対無敵の力を手に入れた! 以前の俺とは違うのだ!」

「ふむ、そこまで自信があるのであればよかろう。私が差しで相手してやろう」

「なんだと?」

「ちょ! 姫様何言ってるっすか! 危険っすよ!」

「……容認できない」

「まぁそういうな。愚かではあるが、あの男はあのような姿になってまで私との決着を望んでいるのだ。ならば私も騎士として、それに報いる必要があるであろう」


 そしてカテリナは、絶対に手を出すでないぞ、と告げ自ら前に歩み出た。


 彼女が騎士としてそれを告げた以上、下手に邪魔をするのは騎士の矜持を汚すこととなる。


「さぁ、始めるとしよう」

「ぬは、ぬははははは! こいつは大バカやろうだ! この状況で騎士道とやらを優先させるか馬鹿め! ならばその誇りごと壊し、あのふたりの目の前で貴様を汚しまくってやるさ! 精神的にも、肉体的にもな!」

「貴様には出来はしないさ」

「言ってろ!」


 サドデスは語気を強め、地面を陥没させながら高速で岸壁から岸壁へと飛び回り始めた。


「どうだ! 俺は以前の俺と違う! 今の俺はスピードも、パワーも、そして柔軟さも、全てを手に入れた! 圧倒的な筋肉美! そこから繰り出される最強の一撃! まさにマッスルパーフェクト! それがこの俺だ!」

「随分な自信だな。まぁ確かに、それなりに速いか」

「粋がってるんじゃねぇ! いくぜ筋肉双斧!」


 サドデスの両腕がみるみるうちにゴツい戦斧に変化していく。


「な、あいつ両腕が斧に!」

「ぬははは! そうよ! 俺の強靭な筋肉で腕を斧に変えたのさ! 最強の筋肉で出来た最強の斧! マッスルダブルアクス!」

「……ネーミングセンスゼロ。あとキモい」

「黙れ黙れ黙れ! 先ずはそこの生意気な姫騎士の着衣をこの斧でひん剥いて、そして怒張した最強の槍で下半身をフッ壊す! その後はテメェだ! 男はどうでもいいからとっとと殺す!」

「おれの扱いがさっきから酷いっす」


 みるみるうちに膨らんでいく股間に、おもわずハーゼも眉を顰める。


「さぁ姫騎士さんよ、俺の技でイッちまいな! 筋・肉・爆・砕・撃!」


 縦横無尽に壁から壁へ飛び回っていたサドデスが、軌道を変え、空中から急角度で姫騎士カテリナに向けて飛び込んでいく。


 腕をクロスにし、一気に振り抜くと地面が大きく爆ぜた。黙々と煙があがり、無数の土塊が舞い上がる。


「な、なんて破壊力っすか!」

「……威力だけなら大したもの」

「ガハハハ! どうだ! 俺様を舐めてるからこんな目に遭うのさ!」


 立ち上がったサドデスは勝ち誇ったような笑い声を上げた。


「しかし、少々やりすぎちまったか? これじゃあ肉片も残らねぇしな。チッ、仕方ねぇ、あの女の分はそっちの牝で我慢しておいてやるか」

「……お前、何を勘違いしている?」

「あん?」

「まぁ、確かに破壊力なら驚くほどなんっすけどねぇ」

「何だテメェら? 一体何を言って――」

「一点集風――」


 サドデスが弾かれたように後ろを振り返った。そこには、完全に倒したと思っていたであろうカテリナの姿。


「ば、馬鹿な! あれを避けたっていうのか! 以前よりはるかにパワーアップした俺の一撃を!」

「……お前はハゲ馬鹿か? 何故自分だけが強くなったと勘違いしている?」

「全くっすね。あんたが強くなってるということは、当然姫様だってそれ以上に強くなっているってことっすよ」


 当たり前のように語るふたり。それに愕然となるサドデス。そしてカテリナは――


「いや、確かにお前の動きは相当に良くなっていた。速さを見ても、目だけで追っていたのでは躱すことは出来なかっただろ。だが、お前の悪い部分が一箇所直っていなかった。狙いが単調でわかり易すぎるという点がな。そしてもう一つ、お前は私を外の世界を知らないカナリアだと言っていたが――この程度で強くなったと勘違いしているようなら、カナリアは私の方などではない――」


 そこまで言い終えたその瞬間、サドデスの視界からカテリナが消えた。


「は? な、どこに――」

「この程度にもついていけないのか?」

「な! 声だけが聞こえて! 馬鹿な!」

「馬鹿はどっちっすか? 姫様はお前と同じことをやっているだけっすよ」

「……そう、壁から壁へ飛び回っているだけ。お前は目だけで(・・・・)追っているから追いついていない」

「馬鹿、な――」


 どうやらサドデスの目にカテリナは捉えきれていないようだ。完全な意趣返しなのだが、そこにはあまりに開きすぎた差があった。


「やはり、外の世界を知らないカナリアは貴様の方だったようだな――いくぞ! 剣嵐豪華!」

「ぎゃ、ぎゃああぁああぁああああ!」


 飛翔体と化したカテリナの斬撃が、サドデスに見事命中。同時に発生した突風が嵐に変わり、無数の風の刃が咲き乱れサドデスの全身を切り刻んだ。


「……あ」


 すると、サドデスの股間のあたりで盛り上がっていたソレが切り離され、一旦宙を舞い、そして地面にポトリと落ちた。


「……小さいからあっさり切れた」

「酷いこと言うっすね! 敵ながら同情……は別にしないっすね。うん」


 サドデス曰く自慢の槍、だが、どうやら筋肉で上手くごまかしていただけであり、本体はかなり小さかったようだ。全てにおいて紛い物な哀れな男である。


「むぅ、しかしすこしやりすぎてしまったか? サドデス、まだ、生きてるか?」


 カテリナが大の字になって倒れてしまっているサドデスに声を掛けるが、ピクンっとわずかに胸板が跳ねたかと思えば、その手が腰に伸び、一本の瓶を取り出した。


「ば、馬鹿が、魔薬は、あと一本ある。これを使えば今度こそ!」


 そして残りの一本を飲み干すサドデスであり。


「馬鹿な、まだそんなものに頼ろうというのか?」

「なんとでもいえ! 俺はこれで、神の力を手に入れ、入れ、ぐ、ぐぶぇ、な、な、ぐひぅ、あ、が、しょ、しょん、な、にゃ、に、きょ、りぇ、は――」


 サドデスの筋肉が突如激しく波打ちだした。かと思えばまるで生物のように蠢きだし、苦しげにうめき出す。


「な、なんっすかこれ?」

「……どうやら、ただ事じゃない」

「う、うむ……」

「ひぅ、た、たすけ、で――」


 サドデスの筋肉を覆っていた皮膚が弾け飛び、生の筋肉が外に溢れ出す。そして瘤となり、それがまた弾け、その度に筋肉量が増し、肥大化し、なんとも言えない姿形となり、サドデスがどんどんと増殖していく筋肉に呑み込まれていき――最後には己が筋肉の圧に耐えきれず、内臓も含めて押しつぶされ、血と肉片があたりに巻き散らかされた。


「――情報を聞き出そうと思ったが、これではもはや無理だな。それにしても、哀れな男だ」


 結局、サドデスは魔薬の副作用で勝手に自滅したようだ。


 膨れ上がった筋肉も、本体が死亡したことで繊維がボロボロと剥がれ落ち、解けた筋肉はあっという間にどろどろの液体と化して地面に吸い込まれていった。


「なんとも惨めな最後っすね」

「……薬に頼るような馬鹿にはお似合いの最後」

 

 ハーゼはなかなか辛辣である。しかし、カテリナの表情は少々険しい。


 一体誰が、自分を狙っているというのか、そこが気になるところなのだろうが――


「――姫様! 何か嫌な予感がするっす! 気をつけるっす!」


 その時、ピサロが警笛を鳴らした。それは彼にとってもはっきりとしたことは判らない妙な胸騒ぎ。


 だが、これは虫の知らせが発動したときに感じられるソレであり――


「むぅ、な、なんだこれは!」

「土が、這い上がってくる――」

「こ、これっすか! 今感じた虫の知らせは、これなんっすか! 姫様、にげ――」

「お前たち、この、はなれ、むぐぅ――」


 それは一瞬の出来事であった。三人の足元から突如土が盛り上がり、全身を舐めるように這い上がった後、一瞬にして固まり、三人の身動きを封じ込めてしまった。


「――どうやら」

「上手くいったようだな」

「当然よ。我らが土遁・混凝土固めの術に掛かればこの程度朝飯前」


 周囲の岩に溶け込むような色合いの服装をした三人が現出しほくそ笑む。顔も布地で覆っているが、鋭い双眸だけは顕にされていた。どうやら彼らは壁に同化するように紛れていたようである。


「さてさて、お前達は一体何者なのでしょうか?」


 だがその時、三人の耳に届くはなんとも艶のある美声。


 ギョッとした顔で三人が同時に後ろを向くと、そこにはメイド服姿の女性。


「女?」

「しかも、メイドだと?」

「馬鹿な、たかがメイドが近づいてきていたことに、我らが気がつかなかったというのか!」


 驚愕する三人。どうやら腕には相当自信があるようだ。


「見たところ、お前たちは帝国とも関係がなさそうね。それなのに、姫達を一体どうするつもり?」

『…………』


 三人は瞬時に口を噤み、各々が両手に武器を構えた。彼らの世界で苦無と呼ばれている武器を。


「征くぞ!」

『おう!』


 一人の呼びかけにふたりが声を揃え、かと思えば同時に印を結び始めた。


「三同術――土遁・大土竜流し!」


 三人が同時に印を結び終え、一斉に地面を叩きつけると、メイドの彼女までを繋ぐ地面がうねりだし、地面が盛り上がり、巨大な土の獣が出現し彼女の全身を呑み込んでしまった。


「ふん、馬鹿な女だ」

「しかし帝国のメイドがなんでこんなところに?」

「帝国にはバトルメイドがいると聞く。もしかしたらあの姫騎士を助けにきたのかも」

「そうか、だが所詮この世界の人間ごときでは我ら忍者に勝てるわけもない」

「あら、思ったより喋られるんじゃない」

『!?』


 全員が驚き、目を疑った。何故ならすぐ目の前に(・・・・)今倒したばかりのメイド服の女がいたからだ。


「貴様いつの間に! えい! 死ね!」

「己! 覚悟!」

「黙って逃げればいいものを、己の愚かさを呪ってくたばるが良い!」


 各々が苦無を使い、メイド姿の女を貫いた。三人の動きが固まる。その目には驚愕。何故なら三本の苦無は互いが互いの肉体を貫いていたからだ。


「馬鹿な、何故……」

「いい夢、見れたかしら?」

 

 耳に届く女の声。視線だけが移動し、女を捉え、そしてまた驚愕した。女は男たちが認識した場所とは全く違う場所に立っていたからだ。


 しかもそこから全く動いた様子がなく、最初から忍者達が見当違いの方向を攻撃していたのを暗に示していた。


「まさ、か、これは幻遁?」

「そんな、この世界の人間が使えるわけなし」

「だが、この感覚は、間違いなく忍術――」


 すると女は近づき、そして彼らの耳元で囁き、その目が驚愕に見開かれた。


「転生、か……」

「ふふっ、さて貴方達はもう死ぬわけだけど、その前に仕えている相手を教えてもらうわ」

「そんなこと言うわけ……」

「判ってるわ。だから――幻術で吐かせる」


 女の目が怪しく光る。途端に忍者たちの目がトロンっとし、夢うつつな状態に。


「さて、教えてもらえる? お前たちに皇女を攫わせようとしたのは誰?」

「――そ、それ、は、は、あ、あああぁ、あああぁあああぁあ!」


 途端に叫び声を上げ、全身がガクガクと震える忍者たち。何か異様な物を感じ取った彼女は、その場から大きく飛び退いた。


 刹那、忍者三人の体が大爆発を起こした。跡形もなく吹き飛ぶとはまさにこのことだろう。


「情報を喋ろうとすると爆発する仕掛けね……でも忍術や魔法の類なら、感じ取れる自信があったのだけどね……」


 目を細め、ふぅ、と嘆息する。

 結局情報は掴めなかったが、仕方がないと頭を切り替えた。とにかく、カテリナ達は助けることが出来たのだから。






◇◆◇


「……む? これはどうしたというのか?」

「はれ? 確かサドデスが勝手に自滅した筈っすが……」

「……その後、土に呑み込まれた」


 三人が呆けた顔でキョロキョロとあたりを見回す。カテリナ達からすれば妖精にでも騙されたかのような妙な気分であろうが。


「どうやら皆様目がさめたようですね」

「ん? おお! ハミットではないか!」

「あ、本当っす! メイド長のハミットさんです! メイド服がお似合いっす!」

「……ピサロのアレももぎ取ったほうがいい。でも何故? ここに?」

「今サラリと酷いこと言ったっすね!」

「フフッ、面白いですね」

「いやすまん。どうも混乱しているのだが、確か我らは妙な力で土の中に閉じ込められた気がしたのだが?」

「はい。どうやら魔法使いが紛れ込んでたようです。ですが、それは私が倒したので」

「え! ハミットさんがっすか?」

「……お前馬鹿。ハミットといえば帝国でも有名な屈指のバトルメイド。通称バトルメイドマスター」

「え~と、その呼び方は出来れば――」


 どうやらハミットはあまり通称は気に入っていないようだ。


 そして説明を受けたカテリナは唇を噛み締め悔しがった。


「しかし、まさか魔術士などに遅れを取るとは……私としたことが油断してしまった。情けない限りだ」

「姫様、それを言うなら私も一緒。あとそこの甲斐性なしも」

「甲斐性なし扱いっすか!」

「あまり気になさらず。あの状況では仕方のないこともあります」

「う、うむ。ところでハミットはなぜここに?」


 カテリナが問いかけると、はい、と薄く微笑み。


「私も姫様の旅にご同行するよう申し使ったので馳せ参じました。今後ともどうぞよろしくお願い致します」


 こうして――カテリナ一行の旅にハミットが加わる事となったのだった。

ただいま連載中

『最弱スキルの紙装甲は神様の誤字だった!~最弱な紙装甲は最強な神装甲へ成り上がる~』です。

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