第百八十四話 元盗賊
一体どうなってやがる? 何で誰もいやがらないんだ?」
サドデスは久しぶりに戻ってきた村の様子に愕然となった。ここは彼が暫く頭として過ごし続けていた山賊の村だ。
尤もその頭の座も、彼が騎士として帝国に仕えるようになった時点で譲っている。他にもサドデスは何箇所かの盗賊団を囲ってもいた。
そういった意味でサドデスの経歴は少々特殊である。何より帝国には賊であることを隠していない。むしろその当時、山賊や盗賊を纏め上げる手腕を買われ帝国騎士団に勧誘された程だ。
尤も隠していないと言ってもその素性を知っているのは一部の団長や将軍に限られる。帝国内でも正義感を振りかざすような騎士はいる。そういった連中に知られては面倒なことにしかならないからだ。
「大頭! 大変です! タイムの町で聞いたところによると、仲間は全員殺られちまったって話ですぜ!」
「馬鹿野郎! 今の俺はお前らの頭じゃねぇ! あくまで騎士の任務でやってきた隊長でお前らは全員俺が雇った傭兵だ! 忘れんじゃねぇ!」
「あ、そうでした。すみません!」
思い出したように手下が謝る。たくっ、とサドデスは丸太ほどもある太い腕を組んで唸った。
実際サドデスは賊の頭の座を個々の山賊団や盗賊団に振り分け、引退という体をとりつつ、必要な時はあくまで傭兵として彼らを利用していた。
必要な時というのは帝国にとって都合の悪い物を排除する場合などだ。場合によっては間引きが必要と判断された村なども、サドデスの命令で傭兵が動き、盗賊として村々を壊滅させ略奪に及んだこともある。
その上で反乱分子となる連中に罪を着せ、捕らえた上で見せしめとして処刑台に立たせたりもした。
そういった行為を繰り返すことで、帝国の威勢を見せつけ、帝国に歯向かうという事がどれほど無謀なことなのかをまざまざと見せつけ圧倒的な権力と武力を見せつけてきたのである。
そういった意味ではサドデスにとってこの山賊の村で暮らす連中のような兵力は重要だったわけだが――
「それで、何か判ったのか?」
「は、はい隊長。それがなんですが……この村のメンバーが全員、殺されたようなんです」
なんだと? とサドデスの蟀谷がピクリと反応した。
「どういうことだ! この村にいた連中はそんな簡単に殺られるような奴らじゃなかった筈だ!」
「そ、それが詳しいことはさっぱり。ただ、山道に首がぶら下がっていたって話で、誰がやったかなんて……」
「お前、そんな説明で俺が納得するとでも思っているのか?」
長柄の斧を肩に掛け、威圧しながら問うサドデスに、手下が身をこわばらせた。
「まってくださいかし、いや隊長。確かに誰がやったと確定できる情報はなかったんですが、気になる話が一つありまして」
「気になる話?」
片眉を上げ、サドデスの興味がもうひとりに向く。その様子に、最初に話していた手下はホッと胸をなでおろした。
「で? どんな話だ?」
「へい、それがですね、どうやらタイムの町近くで一時ゴブリンの大量発生があったようで」
「なんだ、たかがゴブリンぐらい大量にあらわれようがどうってことないだろ?」
「普通のゴブリンならそうですが、どうやら冠持ち、しかもキングとクィーン種だったそうなんでさぁ」
「キングに、しかもクィーンだと?」
ドスンッ! と斧頭を叩き落とし、顎に手を添え、うむぅ、と唸る。
「クィーン種が出たということは噂のアレの副産物ってことか。おまけにキングまでいたとなると、まさか村の連中はそいつらに?」
「最初はそうも思ったんですが、情報を集めていると、どうやらそのクィーンを倒してしまった傭兵がいたようでさぁ。クィーンがいたという事もその傭兵が持ち帰った情報で判ったみたいですからね」
「クィーンを、倒しただと? 待て待て、そうなると、まさかキングもか?」
食い気味にサドデスが問う。へい、と手下は答え。
「問題はそこからなんですがね。どうにも話を聞いてると、その傭兵には一人口の聞けない女の連れがいたらしいんでさぁ。シェリーという名前で呼ばれていたらしいですが、一緒にいた傭兵もシノビンとかいうらしくて、これって確か……」
「あぁ、間違いねぇ」
話を聞いてサドデスがにやりと口角を吊り上げる。確信したといわんばかりだ。
「そいつらはまだ町にいるのか?」
「いえ、どうやら商人の護衛を引き受けて旅立ったとか。ですが行き先は判りますぜ。港町ハーフェンってことでさぁ」
「……ハーフェンか。そんなとこ目指して一体何のつもりだ? ふん、まぁいい。だったらとっとと俺達も――」
「待って下さいか、いや、隊長。実はもう一つ耳に入れておきたい事が」
「うん? なんだ? これ以上何かあるのか?」
「へい、それがですが、実はみちまったんですよ」
「見た? 何をだ?」
「へい、隊長が探しているもう一人の、姫騎士らしき女をでさぁ――」
◇◆◇
「つまり、そのシノビンという傭兵がこの町を救ってくれたと?」
「うむ、そのとおりでしてな。いやはや本当に彼のおかげで助かりましたよ。しかもかなり謙虚な好青年でしてな。私が娘のフトメデを是非とお願いしようとしたのですが、まだその器ではないなどと申されてな」
「グフッ、パパの話を聞いて私も興味を持ちました。今ではどのような御方か想像するだけでグフフッ――」
「そ、そうですか……」
名前の通りずいぶんと太めな一人娘とやらを見ながら硬い笑顔を振りまくのは姫騎士カテリナである。
彼女はこういった町に到着しては妹であるシェリナやそれを連れ去った仮面シノビーについて聞いて回っていた。
そして町長の話を聞く限り、どうやらシノビンと名乗る傭兵が大量発生したゴブリンを退治するのに一役買ってくれたようだ。
特にゴブリンクィーンなどといった聞いたこともない異種すらも一人で倒し、冠級でも上位に位置するキング種まで倒してしまったという点に関しては興味深く、同時に驚きでもあったが、何より重要なのは同行している者たちについてであり。
「それで、一緒に旅をしていた中には石版で筆談をする少女もいたのですね?」
「はい、左様でございます。中々に可愛らしい女の子でしたな。私がもっと若ければ旅へ同行し、つかずはなれず守り続け――」
「……殺すぞこのカスロリ」
「……はい?」
「ちょ! ハーゼ、突然何を言い出すんだ!」
「……カーナ、でもこいつが」
「全くこいつがじゃないっすよ。確かにどうみてもカツラで幼女好きっぽいすが、折角こうして教えてくれてるんっすから」
「……いやピサロ。お前も少し黙っていてくれ」
口を噤み、険しい顔を見せる執事の姿に居たたまれなくなるカテリナである。
ただ、それを聞いていた町長は大笑いしており、その後何故か取っ組み合いの喧嘩に発展していたが。
とにかく、もうこれ以上ここで聞くことはないな、と判断したカテリナはお供のふたりを連れ立って町を後にするのだが。
「全く、お前たちは少しは自重してくれ。私達の行動はあくまで秘密裏に進める必要があるのだからな」
「もとはといえばハーゼが悪いっすよ。向こうだって親切心で教えてくれているのに不機嫌にさせるような事をいうんっすから」
「……アレは皇女を邪な気持ちで見ていた。本来なら死刑にされてもおかしくない」
「気持ちはわからんでもないが、実際に手を出したわけでもないし、あれはただの願望だ。その程度のことでいちいち目くじらを立てていてはキリがない」
ピサロの言うことには全く耳をかそうとしないハーゼだが、カテリナに言われると堪えたのかしょんぼりしてしまう。
「……私、役立たず」
「い、いや! そうではないぞ! そもそもあの情報とて集めてきたのはハーゼではないか!」
「……私、役に立ってる?」
「うむ、勿論だ」
ハーゼの顔が若干崩れる。あまり感情を表に出さないタイプではあるが、旅を続けている内に微妙な変化が掴めるようになってきた。
「まぁ確かにそうっすねぇ。確かにおかげでシェリナ姫の足取りは掴めたっす。やはり無事だったっすね!」
「あぁ、そうだな。それにしても……情報を聞く限りシェリナは自由がきくような環境に置かれているようなのだが何故逃げ出さないのか?」
形のよい顎に指を添え小首をかしげる。あの塔での遺体は偽装であり、実際は仮面シノビーに連れ出された事までは判っていた。
だが、未だに目的が判らない。シェリナだけではなくマイラという女騎士も連れ去っている点も奇っ怪な点であった。
「……とりあえずハーフェンに行くしか無い」
「あぁ、そうだな。目的地がわかった以上、ぼやぼやしている暇はない。また暫く野宿が続くことになるかも知れないが……」
「……問題は無いです。食料も豊富」
「そうなんっすよねぇ。ハーゼのマント、一体どうなってるっすか? どんだけ物が入るのか不思議なんっすよ。見てみてもいいっすか?」
「……カーナは私が守る。とりあえず目の前の狼から守る事を誓う」
マントに手をかけてきたピサロの腕にナイフを振り下ろすハーゼ。ヒッ、と咄嗟に腕を引っ込めるが、あと一歩遅ければ肘から先が無くなっていた事だろう。
「ちょ、ちょっとマントをみようとしたぐらいで何するっすか!」
「……うるさい黙れ。大体お前、半径五万キロメートル以内に近づくなと言っただろう」
「そんなの無理に決まってるっす!」
ぎゃーぎゃーと口論を始める二人。その姿を一瞥すると、フフッ、とどこか楽しげに微笑み。
「全く、仲がいいことだな」
「どこがっすか!」
「……絶望的勘違い」
そんなやり取りを含めながらも先を急ぐ三人。そして森を抜け、山賊の首がぶら下げられていたという山道に差し掛かった時であった。
「――カーナ、ショウズリが反応してるっす」
「あぁ、判ってる。いるな……」
「……数は、十二――」
左右が岸壁に挟まれた道であった。見上げると上の方は奥に引っ込んでおり、位置的にはそこに潜んでいるのであろうことが良く判る。
そこから敢えて足を進める三人。すると、パッと左右から何者かが姿を見せ、一行へ矢を射ってきた。
だが、既にいると判っていた三人にとって対処は簡単である。カテリナに関しては風操作という固有スキルがあり、それだけでも矢の軌道は逸らせる。
ピサロとハーゼもそれぞれの特技で降り注いできた矢を叩き落とした。
「何者かは知らないが、随分と手荒い歓迎だな」
三人を見下ろしてくる賊共を睨みつけながらカテリナが言った。
すると、ガハハ、と下品な笑い声が鳴り響き。
「知らないとは冷たいじゃないか。俺の顔を忘れちまったのかい? 姫騎士さんよ」
「――お前、まさか、サドデスか?」
実は、ネット小説大賞の一次選考を密かに通過していたりします。
二次選考の結果発表が明後日の25日であることが発表されました。もう間もなくですね。
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