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第百七十七話 ハーフェンの大船長

「――まさか俺の口寄せした鮭の大助(しゃけのおおすけ)がここまでやられるとはな……」


 繋船柱に繋ぎ止めた巨大な海賊船、アクアリベンジ号の船長室で男が独りごちる。

 ハーフェンに唐突にやってきて、半日足らずでハーフェンの町を支配下に置いた水滸海賊団が大船長、清連(せいれん)である。


 例の川に、あの巨大な鮭を放ったのはこのセイレンであった。

 その為に、水滸海賊団はあの三男爵領の一つにも特使を送り、密約を結んだ。

 セイレンの狙いは、海賊として使えそうな強い戦士だ。それを見極め、差し出せばそれ相応の礼はする。今後何かと協力できる事もあるはずだ、と。


 赤髭の男爵は、随分と乗り気になってくれたようであり、早速海賊として役立ちそうな者を送ってよこしたようだ。


 だが、それに口寄せしたアレを倒されてしまったのは少々誤算でもある。

 捕獲を第一に考えていた為、本気にはさせていなかったが、それでもそう易易とやれる物ではない。 

 

 だからこそ、逆に興味も湧く。一体、何者なのかと――


「大頭! 大変です」

「何だ騒々しい。それと、俺のことは船長と呼べと言っているだろう」

「し、失礼いたしました。船長入ってもよろしいですか?」

「入れ」

 

 扉をノックする音が聞こえ、船員の慌てる声。一つ窘めはしたが、どうやら何か問題が起きたようでもある。


「失礼致します」


 セイレンが許可すると、船員が入ってきて、険しい顔で報告してきた。


「船長、実は町に侵入者が現れまして、それでご報告に……」

「――馬鹿が、そんなものはテメェらで何とかしろ。いちいち俺の判断を仰がなきゃ何も出来ないのか?」


 ギロリとまるで鮫の如く鋭い目つきを向ける。

 瞬時に機嫌の悪くなった船長の様子に、船員はたじろぐが。


「も、勿論何とかしようと思いましたが、そいつ妙に強くて、魔物使いらしいんですが何もないところから魔物を呼び出すスキルまで持ってるんです。俺達だけだとどうにも……」

「……全く情けない連中だ」

「も、申し訳ありません。ですが、そいつ面白いことを言ってたんです」

「面白いことだと?」

「は、はい。なんでもそいつが言うには帝国の魔導師団所属なんだとか、自分に手向かうことは、帝国に刃を向けるのに等しいだなんだと……」


 船員の報告に、ほう、と反応。どうやら少しは興味が出てきたようであり。


「帝国の魔導師団か……それは色々と使いみちがありそうだが、魔物使いか――」


 顎をさすり、一考する。椅子の背に体重を掛けた。ギシリという軋み音が船室にこだまする。


「……副船長のダイヤともう一人、新しく副船長になったサンザーラを連れて行け。それで十分だろう」

「は、はい! ありがとうございます!」


 セイレンの言葉に、船員の男は喜色を浮かべ頭を下げた。


 そして部屋を後にする。それを見送った後、よさそうな餌が手に入りそうだな、とセイレンが呟いた――






◇◆◇

 

 時は少しだけ遡り、グレイトブリッジの町から橋を渡り、シーノスサイド領に入ったマビロギは、北東方面にある港町ハーフェンを目指し一人突き進んでいた。


 その目的は、先回りしてあのシノビンという男を待ち構え借りを返すこと、にあったのだが――今は少しだけ状況が変わってきている。


 あの連中がハーフェンを目指している事は、タイムの町で集めた情報から判っていた。だからマビロギは途中で魔物を集めつつ、自身のレベルも上げながら、先ずは三男爵領の一つである、キープブリッジ領にあるグレイトブリッジを目指していた。


 正直、途中のレベル上げと、魔物集めでそれなりに時間を要してしまい、先に行ってしまってないかと不安にはなったが、グレイトブリッジに辿り着き、町の門番に話を聞く限りはそれらしき姿はなさそうであった。


 しかし、そこでマビロギは橋が現在通行止めであった事をしる。

 それに納得がいかず、門番に理由を尋ねたが最初は随分と横柄な態度であり全く話にならなかった。

 

 なので仕方なく、自分は帝国の魔導師団所属である事を告げたわけだが――途端に姿勢を正し、声を震わせ謝罪を述べた門番は、マビロギの詰問にあい――結局、領主であるブルービアド男爵に話を聞く運びとなった。


 最初男爵は、なんでこんなところに帝国軍のお偉いさんが、などといった戸惑いの表情を見せていたが、理由に関しては極秘ということで通しつつ、通行止めの理由を聞く。


 それによると、どうやらハーフェンに向かった商人が全く戻る様子がなく、更にハーフェンが何者かに占拠されてしまっているという情報も届いてきたため、用心のため通行止めにしていたという。


 なぜそれをすぐ帝国に伝えなかったのか? と、マビロギはキツく言っては見たが、これといった確証が無く、証拠もないのにそのような報告を送るのは逆に失礼に当たると思い、というなんとも呑気なものであった。


 とはいえ、結局は他所の領地の事だ。この男からすればそれがどうなろうと知ったことではないのだろう。

 

 とにかく、聞いてしまっては放ってはおけないという事で、マビロギは特別に橋を渡る許可を貰い、ハーフェンの町に向かったわけであり――


 そして、山を越え谷を越え、ついにハーフェンの町が望める丘の上にまで辿り着いた。


 そしてマビロギは途中で集めた魔物を使い、町の様子を確認。

 鳥タイプの魔物であり、空中から町の様子が確認できるわけだが――


「あれは、海賊旗……そうか、海賊に占領されているというわけだな――」


 港には随分と仰々しい海賊船が何隻か並び、繋留されていた。

 おかげでかなり判りやすかったわけだが、問題はこの後どうするかだ。


 マビロギは考える。本来ならば上役の判断を仰ぐべきところなのかもしれない。だが、実際のところ、帝都から突然飛ばされてしまったマビロギには複雑な思いもある。


 帝都での事は明らかに自分の失態も原因としてある。何せ人質として取られてしまったのだ。


 それなのに、何も結果も出せずただ帝国に報告しても、汚名はそそげない。

 

 ならば――今ここで自分が解決してしまえば。そんな考えが頭を擡げた。

 

 それに、ここにくるまでに随分と魔物をティムしている。自分や魔物のレベルもあげたし、新しいスキルも覚えた。


 そうだ、これなら、たかが海賊、恐るるに足らず。


 マビロギは決断した。それに、あの男に借りを返すという目的だって、このままではままならない。


 どちらにしてもあの橋はこの問題を解決しなければ通れない。

 それまではアレだって立ち往生のはずである。


 だから――マビロギは、ハーフェンに向けて歩みを進めたのだった……。

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