第百七十八話 マビロギVS水滸海賊団
「ぐはぁああぁあぁあ!」
爆発が起き、門番を任されていた海賊が、随分と派手にふっとばされていく。
ローブ姿の魔物使いは、そのまま堂々と港町の中へと足を踏み入れ、周囲を威嚇するように視線を動かした。
「全く、いきなり襲い掛かってくるとは不埒な連中だ。この僕を帝国魔導師団所属、第十三師団の団長と知っての狼藉か?」
マビロギが堂々と言い放つ。そう、密かにマビロギは団長である。
ただし、第十三師団は魔物使い専用の師団であり、配下も全て魔物――つまり正式な団員がいないため完全な一人団長状態だが。
「魔導師団ってマジかよ……」
「しかも団長って――」
「び、びびってんじゃねぇよ」
だが、そんな肩書でもこの手の連中に効果はあったようだ。
帝国の魔導師団と聞き、完全に及び腰になっている。
「びびってんじゃねぇ! 大体これはチャンスじゃねぇか! ふんづかまえてセイレン様の下へ持っていこうぜ」
「全く僕は物じゃないってのに」
数人の海賊が、シミターと呼ばれる曲刀を片手にやってきた。
だが、慌てること無くマビロギは懐から魔石を取り出した。
「は? 魔石? 俺たちにくれるってのか?」
「なんだいきなり命乞いかよ。たく、なさけねぇやろうだ!」
「勘違いするな。この魔石こそが、僕のクラスの真骨頂!」
ハッ! と気合の声を上げて魔石をばら撒く。すると、なんと魔石だったソレが、あっという間に魔物に変化した。
「な、なんだ! なんで魔物がこんなに!」
「お、落ち着け所詮はゴブリンだ!」
「アハハッ、その、クラス付きのゴブリンを馬鹿にしていたら痛い目見ることになるよ」
海賊たちはたかがゴブリンと侮ったようだが、このゴブリンはマビロギが途中で隷属化させた強力なゴブリンだ。
レベルも通常のと比べ物にならないほどであり、最低でも20は超えている。
「ご、ゴブリンの癖につえ~!」
「なんでゴブリンが魔法なんか――」
馬鹿にしていたゴブリンに逆に返り討ちに合う海賊ども。
それを認めながら、ハハッ、やっぱり僕はパワーアップしてるぅうう! と喜んで見せるマビロギ。
何人かその場から逃げ出して、報告に向かった存在がいたようだが、連中の向かう先が海賊船なのは判っている。
あとはゆっくりと料理しながら、大船長というお山の大将も片付けてしまおうか、などと考え始めるが――
「少々調子に乗り過ぎなようだな」
魔物たちを引き連れて、町中を練り歩くマビロギであったが、何者かの声が届き、直後、地面に衝撃が走った。
ゴブリンの集団が彼方へと飛ばされていく。
何? と怪訝な顔を浮かべるマビロギの視界には、ハルバードを所持する黒騎士の姿。
どうやら高いところから降ってきたようであり、その刃の一撃で数多のゴブリンを屠ってしまったようだ。
「……お前も海賊なのか?」
「水滸海賊団、海賊船アイアンウォール号を任されし副船長、ダイヤ・ブラックだ」
名乗りを上げる海賊団副船長。顔も黒兜ですっぽり覆われているため、その声は随分とくぐもって聞こえた。
「何かと思えば副船長? そんな副船長如きで僕が止められると本気で思っているのかな?」
そういいながら、更に魔石をばら撒くマビロギ。
固有スキル魔石変化――彼女が新しく覚えたスキルであり、魔物を魔石にして持ち歩くことが出来る。
シノブへの怨嗟から、マビロギもまた、ここに至るまでに随分と強化してきた。
その結果、クラスにも変化があり。
ステータス
名前:マビロギ
性別:女
レベル:50
種族:人間
クラス:魔物大使
パワー:200(+2200)
スピード:320(+2800)
タフネス:180(+2500)
テクニック:320(+3000)
マジック:1620(+2700)
オーラ :2700(+3600)
固有スキル
魔物隷属化、魔物強化、ステータス加算(魔物分)、魔物操作、魔物招集、隷属率上昇、魔石化、魔石像身
スキル
身代わり、四属性魔法、オーラ強化
称号
魔物を従えし大使
レベルも50に達し、更に魔石化のスキルも手に入れた。ステータス加算は多少効果は落ちるまでも魔石状態の魔物からも恩恵は得られる。
そしてばら撒いた魔石はそれぞれ、四本腕のゴリラ、巨大な蜘蛛やムカデ、羽の生えた蠍などに変化。
それら全て、途中で隷属化した魔物だが、当然レベルの強化も行い、魔物大使の恩恵でステータスも強化されている。
「ゴブリン程度で調子に乗られたら困るかな。この魔物はさっきより更に手強いよ?」
「……そのようだな。ならば逃げさせてもらおう」
「は?」
ダイヤがそう言い残し、なんと踵を返して遁走した。
間の抜けた顔を見せるマビロギだが、歯噛みし、ふざけるな! と魔物たちをけしかける。
「そんな鎧着て、見た目通りの鈍足じゃないか。そんな足で僕の魔物から逃げられると本気で思って――」
マビロギの言うとおり、確かに黒鎧の騎士は脚が遅く、彼女の呼び出した魔物から逃げ果せると思えない。
だが、魔物がある程度距離を詰めたその時、地面に奇妙な術式が浮かび上がり、そこに到達した魔物たちの体に禍々しい印を刻んでいった。
途端に、地面を転がり、うめき声を上げながらジタバタと暴れまわる魔物たち。
だが、それも長くは続かず、魔物は朽ち、本当の意味での魔石に成り果てた。
「……残念だったなぁ。しっかし、こんな単純な手に引っかかるとはなぁ」
狼狽するマビロギの前に、一人の男が姿を見せた。彼女と同じように、ローブを身にまとった男だ。
白い縁取りのされた漆黒のローブ。フード付きだが、被せてはいない。
引き締まった顔立ちの男だった。上背も高く、骨太のがっちりとした肉体でもある。
だが、全体的に見れば不気味な男だ。両目のある位置で、顔を半分に割るが如く、縦に脊髄のような入れ墨、それにすっかり剃り上がった頭蓋には、髑髏の入れ墨が施されている。
「呪殺のサンザーラだ。縁あって水滸海賊団の副船長を務めている。そして、大船長の命令で、お前を連れていく」
「ふ、ふざけるな! 誰が貴様ら海賊になんて従うか! 喰らえ! ブレイズキャノン!」
指を突き出した方向へ、まるで大砲から発射されたが如く、巨大な火炎弾が飛んでいった。
そして着弾し、ふたりの副船長を呑み込むように爆轟が広がった。
「やったか!」
思わず声を張り上げるマビロギ。だが、すぐにそれは悪夢へと変化する。
なぜなら、火炎弾が飛んでいった方向ではダイヤが盾となり、サンザーラも含め爆風から身を守っていた。
「悪いが俺は、鎧の強度を自在に変化できるものでな」
「そ、それで私の魔法を防いだというのか?」
「そういうことだ。ダイヤは頑丈だからな。そして俺の特技は呪い。もうあんた、逃げられないぜ?」
サンザーラの話を聞き、弾かれたように体をチェックする。
そして気がついた、いつの間に呪いの印がその全身に刻まれてしまっている事に――
◇◆◇
「こいつが魔導師団所属の魔物使いか。なんだ、女だったのか?」
「はい、私も少々驚きましたが――」
セイレンの言葉に、隣に立った女が答えた。
黒髪を後ろで纏めた女性だ。虹彩が白く、一見すると瞳がないのかと思えてしまう。
小柄で童顔なせいもあり、見た目には十~十二歳程度の少女のようにも思えた。
そして、そんな海賊たちの前には、ローブを剥がされ、下着だけの状態で呪いによって動きを封じられた艶めかしい少女の姿。
薬を持ち歩いていなかった為、大きな胸が顕になってしまっており、もはや男では通用しないことがよくわかる。
「何か持っていたか?」
「いえ、私の方で隅々まで調べましたが、装備品と魔石以外はこれといったものはありませんでした」
「ヘッ、全く連れ帰ったのは俺なんだから、調べる役目は俺に任せてほしかったな」
一緒に立ち会っているサンザーラが残念そうに言った。
彼の目は捕まえたばかりの魔物使いの少女に向けられており、好色な笑みを浮かべている。
「……私は堕落した身とは言え、巫道をゆく巫女である事に変わりありません。その私の前で下劣な発言を繰り返すなら許しませんよ」
「おっと、怖い怖い。全く、シュバルツ・ゲッティン号の船長様は見た目と違って恐ろしい」
「まぁ仕方ないね。彼女は無駄に女性がひどい目にあうのを許せないたちなのだから」
そう言って会話に加わったのは左が黒、右が白といったモノトーンなローブに身を包まれた人物。
だが、ローブ以上に彼は特徴的な見た目をしていた。
何せ髪も左が黒で右が白、その目も肌の色も左が黒で右が白なのである。
「だから、彼女に逆らうのはオススメしないね。ただでさえ君はここでは新参者なのだから」
「……判ってるさ。ま、俺の上役に当たる船長に言われたら従うしかないな」
声を掛けてきた彼は、右半分だけで器用に笑ってみせた。
彼はカースバインド号の船長でもあり、サンザーラの言うように副船長になった彼のお目付け役でもある。
「それで、彼女のことはどうするつもりかしら? 手に余るなら私の方で預かるわよ」
今度は眼鏡を掛けた白衣の女性が前に出て、自分の考えを述べた。
セイレンは肩をすくめ。
「あんたに預けたら、実験の材料にされるだけだろ? それに協力してもらいはしたが、根本的にはあんたは部外者だ」
「あら、冷たいのね」
腕を組み、残念そうに言葉を返す。
知的でありながら、妙な色香も感じさせた。
「それに、折角帝国の魔導師団とやらの団長がわざわざおいでなすったんだ。色々聞きたいこともある」
「ふ、ふざけるな! 僕をこんな辱めにあわせて、その上勝手なことを! 誰が貴様になんて答えるか!」
「威勢がいいのは結構だが、別に話したくないならそれで結構。どっちにしろ、テメェ如きには抗えないさ」
セイレンが右手を翳し、ギュッと握りしめる。すると拳に潤いが生じ、ドロっとした水が湧き出てきた。
「水遁――香軟水・妖だ。たっぷりくらいな」
「な、なんだこれは、や、やめ、ウグゥ!」
まるで意思を持ったかのように、セイレンから生まれた水がマビロギの口の中に進んでいき、無理やり口内にねじり込まれた。
すると、マビロギの目がトロンっとしたものに変わり、セイレンの質問に素直に答えていく。
そして、マビロギからこれまでの情報を聞き出したセイレンの顔が歪み、突如大声を上げて笑いだす。
「おいおい、どうしたんだ大船長は?」
「セイレン、何か、嬉しいことでもあったの?」
「あぁ、あったさ。こいつは、召喚されてきたという連中と、何度も屈辱を味わってきた忍者は別人だと思ってるようだが、霧隠だと? そんな大層な姓を付けてるのなんざ一つしかねぇ――霧隠一族、恨んでも恨みきれねぇ、そんな腐れ忍者どもだ……」




