第百七十四話 VSオークの群れ
「ゴリゴリゴリーー!」
ゴリゴリ叫びながら鼻息を荒くして突っ込んでくるこいつは間違いなくヤバイやつだ。
何がヤバいってそのスキルの効果だ。固有スキルの同性強孕なんかは嫌な予感はしたがどうやら相手が男でも孕ませてしまえるらしい。
どんな理屈かは知らないけど、こんな奴のをと考えるとおぞましくて仕方ない。
俺は思わず身構えつつ、一定距離を取ったままひたすら針だけを投げ続ける。
「ゴリ、ゴフ、ゴフン♪」
何か嬉しそうだーーーー! 攻撃されて嬉しそうってどんだけだよ! ヤベェ、全く怯む様子を見せない!
「くそ! これじゃあ埒が明かない!」
しょうがない。俺は霧咲丸を抜き、紫電一閃を喰らわせた。
「ゴリィ、ゴ、リィ――」
ゴリゴリオークは死んだ。ただ、何故かその表情は満たされていた。本格的にヤバい奴だったな……。
「なんや、あんはん、針以外も使えたんやな~しかもそれ刀やないか。流石、東方の血が混じってるだけあるわ」
「え? あ、あぁ。そうなんだ、偶然手に入れてね」
結局霧咲丸を使ってしまったけど、ミキノスケの態度はそこまで変わらない。
どうやら東の島国とやらでは刀も普通に使われてるようだな。
「なるほどのぅ、じゃけん、こっちじゃ中々手に入らないよって、貴重品として扱われてるようやけどな。偶然で手に入ったならあんはんラッキーやで」
「そうだったか……あまり気にしてなかったけどな。やっぱりこっちでも刀として知られているのか?」
「う~ん、そういう風に言うもんもおるけど、ハラキリブレードなんて妙な名前で出回ってることもあるようやな」
は、ハラキリブレード……それは確かに微妙だ。一体なぜそんな名前がついたんだか。
「それじゃあ、こっちのオークこそは餌として――」
「いやいや! 無理だろう! オークは無理だって!」
それにこんなゴリゴリなのをイズナに食べさせてたまるか!
とにかく、魔石だけを採取して、先を急ぐ。
「おっと、いたでいたで、勢揃いや」
「うわ、本当に多いっすね……」
木々の隙間からオークの集会所を覗き込む。どうやら森の一画を伐採して集団で暮らせるようにしてしまってるようだ。
「あの後ろのは何か雰囲気が違う。冠種だろうな」
「そやな、ロードあたりやろ」
ステータス
名前:オークロード
レベル:40
種族:魔物
クラス:人獣系豚党首
パワー:880
スピード:240
タフネス:1000
テクニック:200
マジック:0
オーラ :550
固有スキル
超臭いゲップ、豚の超鼻息、豚豚豪豪
スキル
異種交配、絶対受精、精力増大、豚撃、強制淫行
称号
強姦豚、豚獣の主
まさにミキノスケが言った通り、相手はオークロードだった。
ただ、ロードという点を考えればまだオークの数は少ないほうかもしれない。
確かロードなら百体ぐらいは率いてる筈だが、目の前でたむろってるのは三十体程度だ。おそらくまだロードになって間もないのだろう。
そしてこいつのステータス、中々強めではあるが、だけどこれなら――
「なぁミキノスケ、あのロードはマーラにまかせてもいいか?」
「え! う、うちっすか!?」
「う~ん、理由は何かあるんか?」
「あぁ、恐らくだがあのロードは魔法に対してそこまで強くはない。俺もミキノスケも直接攻撃が主だから、それならロードは彼女に任せた方が効率がいい。マーラもあれは基本的には接近戦メインの戦いしかしてこないだろうし、動きも鈍重だ。十分に対応できると思うんだがどうだ?」
一応はマイラにも確認を取る。とはいえ、実際はマイラの経験値稼ぎ的な意味合いが強い。
マイラもこの旅でレベルがかなり上がってきた。だけどその為かちょっとした魔物程度じゃもうそれほどレベルアップが望めない。
そういった意味ではこのオークロードは好都合だ。今のマイラならスピードは間違いなく上だし、相手のマジックは0でスキルにも耐性系のがない。
マイラの魔法で十分押せる相手だ。しかも伐採して更地にしていてくれてるから、炎の魔法を行使しても問題ない。
「わ、わかったっす! やるっす!」
「ふ~ん、なるほどなぁ。確かに魔法で叩けるならそれが一番やけど、ようそんな細かいことあんさん判ったな?」
「あ、いや、経験上何となくだけどな。でも間違ってはいないと思うぞ」
「ふむ、わ~ったで。ほんじゃま、それでやってみるかのう。なら嬢ちゃん、露払いはわいらに任せとき」
「そうだな、オークロードに集中できるよう、まず俺たちで道を切り開くから、その後は頼んだぞ」
「わ、判ったっす!」
話は決まった。先ずは俺とミキノスケでオークの群れに突撃していく。
オークそのものは俺からすれば大して怖い相手ではない。
それはミキノスケにしても一緒だ。徒手空拳でオーク共を次々片付けていく。
回転しての旋風脚でオークの巨体が塵芥のように吹っ飛んでいく様は中々に爽快だ。忍者の体術に負けてないとさえ思える。
一方の俺は普通のオークは勿論、何故か寄ってくるゴリゴリオークも片付けていく。
正直うんざりだけどな! 霧咲丸の切れ味は抜群だ。
一振りごとに切り株状態のオークが量産されていき、ゴリゴリオークの頭も飛んでいく。
そして露払いをすることで、マイラからオークロードに繋がる道が出来上がった。
マイラは先ずバーニングショットを行使。散弾のように分裂して飛んでいく炎の弾丸が全てオークロードに命中。
あの巨体だからな、命中範囲が広い分、散弾でもよく当たる。
しかも鈍足だからマイラの魔法は殆ど命中している。
更にファイヤーボールを当て、フレイムランベルの魔法も見事命中。
焔の騎士が突撃するフレイムランベルは威力も相当高い。
オークロードは全身が火傷と爆傷だらけになり、相当疲弊しているのが判る。
俺の方もオークやゴリゴリオークがだいぶ片付いてきた。ミキノスケの周囲にも首や頭蓋の骨が砕けたオークの骸が積み重なっていた。
「グオオオォオォオオオオォオ!」
オークロードが咆えて跳躍、自重を活かして手持ちの棍棒を叩きつけるが、モーションが大きすぎる。マイラがこんな攻撃を避けられないわけがない。
しかも攻撃後の隙が大きく、マイラはその間に炎をまとったアブラソメビの火炎十字剣で大きく十字に切りつける。
うめき声を上げたオークロードは苦し紛れか、超臭いゲップ、豚の超鼻息などを行使。
ゲップは相手をひるませるが、事前に話していたのでマイラはすぐ範囲外から逃げ、超鼻息で臭いを広げようとしたようだが、それも通じなかった。
すると――今度はオークロードが人差し指をマイラや俺達に向けてきた。
『ブヒブヒブヒブヒブヒブヒブヒーーーーーー!』
するとどこからともなく大きな豚の群がやってきた。マイラや俺達に向けて体当たりを仕掛けてくる。
これが豚豚豪豪の効果だ。豚を呼んで攻撃に利用する。
だが、確かに数は多いが、ある程度レベルのある相手にこれは通用しないだろう。
特に炎の魔法が使えるマイラにとっては良いカモだ。
こんがりといい感じに焼けた焼豚がどんどん転がっていく。
俺も豚は出来るだけ多く倒していく。この豚はジャイアントポークという名前の動物だ。
つまりそもそも魔物じゃない。当然食材としてこれほど有効なものはない。
結局、切り札(オークロードにとってはだけど)も通じなかったオークロードは間もなくしてマイラに倒された。
「やったっす! 倒せたっす! レベルも上がったっす!」
どうやら思った通りレベルの高いオークロードを倒した事でレベルが上ったようだな。
これでまたマイラも強くなったか――
「……ふん、レベルなんぞがそんなにうれしいかのぅ――」
ミキノスケの呟きが聞こえてきた。それがなんとなく気になってミキノスケを見るが――
「ん? わいの顔に何かついとるかいな?」
「あ、いや、別にそんなことはないが、とりあえずオークは片付いたな」
「おう! せやな。それに、豚もぎょうさん狩れたで。これならあの犬も満足やろ?」
「あぁ、そうだな」
浮かべる笑みに変わりはない。ただ、レベルはこの世界の住人ならだれもが気にすると思うんだけど、頓着がないのだろうか?
まぁとにかく、折角だから豚とオークロードやオーク達の魔石を回収し、俺達は砦へと戻ることにした――