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第百二十五話 狼煙

「チッ、多少はやるってことか。だがな、あの程度で調子に乗ってんじゃねぇぞ」


 ハウンドが言う。普通なら多少は認めてくれたのか? と思いそうなものだけど、こいつの場合は目つきが全く変わらない。


 つまり何かを企んでいるような、そんな訝しさが漂っている。


「それにしてもそっちの女、マーラって言うんだったな。すげーじゃねぇか、魔法剣とはな」

「別にこれは魔法剣じゃないっす。この武器のおかげでそう見えるだけっす」


 マイラは素直だな。魔法剣士でも通常は扱える属性は一つか二つ程度ってところらしいし、それでも通そうと思えば通せたんだろうけどな。


「そうなのか、随分といい武器なんだな、ちょっと見ていいか?」

「いやっす。あんた信用できねっす」


 うん、すげー拒絶感だな。まぁ昨日の事もあるし、一緒の班とは言え別に気を許す理由にはならないからな。


「全く警戒心の強いこった。だがそこがまたいいぜ。どうだ? もういい加減そんなやつと組むのは止めて俺達の――」

「お断りっす! あたしがあんたと組むことは絶対にありえないっす。もう誘っても欲しくないっす」


 ははっ、本当気が強いなマイラは。


「――ふん、まぁいいさ。それぐらいのほうが楽しめるしな。さて、それじゃあ魔石を回収するぞ。お前らもさっさと回収して俺達の下へ持って来い」

「は?」


 ハウンドが突如命令口調で指示を出し始めた。奴の仲間はすぐにゴブリンの解体に向かったが、俺には正直言っている意味がわからない。


「どうした? お前らもさっさと済ませろ」

「いや、それは確かにやるが、なぜお前に渡す必要があるんだ?」

「俺がリーダーだからに決まってんだろ。安心しろ今回の内、報酬の一割ぐらいはお前らにくれてやる」


 マジで何を言っているんだこいつ? 少なくともゴブリンボスも含めて俺達の倒したゴブリンの分をこいつがせしめる理由なんてないだろう。


「一体いつからお前がリーダーになったんだ? それにこっちのゴブリンはボスも含めて俺達が倒したものだ。だから当然回収はするがお前らに渡すつもりはない」

「あん?」


 舌を回すようにして俺を威嚇してくる。しかし、帝国で戦った連中に比べればこんなやつに威嚇されても何も感じないな。


「俺達は同じ班にいる。なら経験のある俺がリーダーに決まってんだろが。お前ら以外のここにいる傭兵連中をまとめ上げているのも俺だ」

「たまたま同じ班なだけだ。別にリーダーを決めろなんて指示があったわけでもない。お前が傭兵を纏めてるから何だってんだ? そんなもの俺たちには何の関係もない。いいからそっちはそっちで勝手に回収してろよ。俺達は俺達の倒した分だけ回収するから」

「そんな勝手が許されると思っているのか?」


 ハウンドが目配せすると、両隣を陣取っていた猟犬も唸り声を上げ始める。


 おいおい、まさか本当にやる気かよ。


「多少ゴブリンが倒せたぐらいで調子にのるなよ。たかが針術師の分際が」


 ハウンドが一旦は鞘に収めていた剣に手を掛ける。どうやら冗談ってわけでもなさそうだな――


「ハウンド! ちょっと待て!」

「あん? 邪魔すんじゃねぇ! こっちは――」

「そうじゃねぇ、見ろよアレ!」


 ハウンドの仲間が慌てたように指をさす。面倒そうに仲間の指の方に目を向けるハウンド。それに俺も倣ったが――


「狼煙だと? 緊急事態ってことか?」


 ここからみて北西側にモクモクと上昇していく煙が見えた。


 偵知の術で探れる距離だ。俺は密かに印を結び状況を確認するが――かなり大きな力がその方向から感じられた。


 それとは別に多数の気配。大きな気配に向かっていったり、離れたり、そして生命力が弱々しくなっている気配も混じっている。


 これは多数の気配の中には間違いなく討伐隊のメンバーも含まれているだろう。


「厄介な相手にでも遭遇したのかもな」

「――チッ、仕方ねぇ。今回はとりあえず見逃してやるよ。運が良かったな。おら! お前ら行くぞ!」


 そしてハウンドが仲間を引き連れて狼煙の上がっている方向へ駆けていく。


「あたし達はどうするっすか?」

「勿論向かうさ。でもその前に――」


 俺はゴブリンボスの魔石だけサクッと回収。後々因縁つけられるのも面倒だからな。だけど、ゴブリンは一旦は仕方ない。


『流石仮面シノビーは抜け目ないです!』

「金の亡者なのじゃ」


 黙れよネメア。あとシェリナ、そこは別に褒められるようなとこじゃないからね。


 とにかくゴブリンボスの魔石を回収してから俺たちもハウンドの後を追った。


 ハウンド達の動きは中々統率が取れている。動きも早い。この辺りは木々の密度も高く、道らしき道もないというのに縫うようにして狼煙の上がっている場所までの最短ルートを選んでいる。

 

 途中現れたゴブリンも全く意に介さず、全て一撃で仕留めていく。嫌なやつだし色々と疑念も尽きない相手だが、かなりの場数は踏んでいるとみるべきか。


 俺への発言もただの自意識過剰というわけでもないのだろう。ただ、俺はもっと凄い相手を帝都で見てきたから相対しても特に感じるものはなかっただけだ。


「おい、付いてくるのは勝手だが今度こそ邪魔すんじゃねぇぞ?」

「最初から邪魔をしてるつもりはないんだけどな」


 フンッ、と鼻を鳴らしてハウンドが駆ける。さっきの戦いにしても俺たちは自分たちの仕事はしっかりこなしている。文句を言われる筋合いはない。


「チッ、まさかこんなところにロードがいやがるとはな――」

 

 そしてそれから程なくして狼煙の上がっていた地点に到着。するとすぐにハウンドが呟いた。

 みるとかなりの人間が倒れている。回復魔法を掛けようとしている侍祭や助祭のクラス持ちの姿も見えるが、ひと目で分かるゴブリンロードとは別に多くのゴブリンも戦場に存在しているため、回復に掛ける時間もそう取れない。


 とにかく、先ずはこのゴブリン達をまとめ上げているデカブツを倒すべきだろう。

 ゴブリンロードはゴブリンボスより更に図体がでかく、頭には角が生えたような兜。胴体にも鉄板を組み合わせた鎧。


 そして手には湾曲した剣を持っている。サイズをロードにあわせているせいか、剣もやはりサイズが大きい。


 しかも当然ステータスも高いわけであり。



名前:ゴブリンロード

レベル:35

種族:魔物

クラス:子鬼系頭首

パワー:500

スピード:120

タフネス:980

テクニック:420

マジック:0

オーラ :480


固有スキル

鼓舞輪、頭首の意地

スキル

異種交配、鬨の雄叫び、闘魂爆発、闘吐弾

称号

歩く生殖鬼、子鬼の主



 これだ、レベルは30を超えていて、ステータスだけみればスピード以外はハウンドよりも高い。


 まぁ帝都で戦った連中に比べればこれでもだいぶ落ちるけどな。


 とは言え、クラスが頭首だけあって固有スキルにもスキルにも味方の能力を引き上げる物が揃っている。


 鼓舞輪はゴブリンロードの周辺にいるゴブリンのステータスを三割向上させるし、鬨の雄叫びはそれだけで暫くの間ゴブリンの攻撃力が五割増しになる。


「ゴブリンロードなんて初めて見たっす……」

『な、なんか凶悪そうな顔です……』

「大丈夫なのじゃ! あんなウドの大木、我にかかれば一撃なのじゃ!」


 流石にマイラとシェリナはちょっとビビってるな。ただ、ネメアは全く怯む様子がない。そりゃそうか、ネメアの方がLVもステータスも高い。


「確かにネメアでも楽勝だろうけど、今はシェリナを護衛しつつゴブリンの数を減らす、シェリナは傷ついた討伐隊の面々を治療していって欲しい。手遅れなのもいそうだけど、まだ間に合うのも多いだろ。多分、今魔法で回復しようとしている連中より、シェリナの方が役立ちそうだ」

『わ、わかりました』

「シノビンはどうするっすか?」

「俺はあのデカイのを相手するさ。だけどマイラはゴブリンを相手している連中の加勢に――」

「おい! てめぇ勝手に決めんな! この場を指揮するのはこの俺だ! ゴブリンロードは俺達でやる。てめぇらは大人しくしてるか手負いのゴブリンでも倒してやがれ!」


 おいおい本気か? ハウンドも確かにLV30はあるが、相手の方がステータスは上なんだぞ?


 だけど、俺が何かを言う前に連中は行動に移ってしまった。

 これは、下手に手を出したらまた因縁つけられそうだな。


「仕方ない、とりあえずあっちはあの連中に任せて、マイラと俺で周囲のゴブリンの殲滅にかかろう。シェリナとネメアは予定通りで頼むよ」


 そういった後、俺達はそれぞれが目的に沿って行動を開始したわけだが。

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