第百二十四話 ゴブリン退治へ
明朝から俺たちはハッゲール邸の庭に集合。結局昨日集まっていた猛者達は全員参加を決めたようだ。
前金と最終的に貰える可能性のある報酬の高さに惹かれたのだろうな。
それに、いくら強くなっているとは言え、所詮相手はゴブリンという考えが根底にあるのかもしれない。
そんなわけで早速町を出て、俺達はカマス山脈を目指すことになる。だが、それにはゴブリンが既に大量発生している森も抜ける必要がある。
ようは、昨日俺達が穴から放り出された森に再度向かうって事だ。
ただ、五十名はいる討伐隊が、一塊で行くというのも間の抜けた話だ。
なので五班に分かれての行動になったわけだが。
「よぉ、昨日ぶりだな。ま、せいぜい足手まといにならないようにしてくれよ?」
最悪だな。俺達と同じ班になったのはよりにもよって昨日因縁をつけてきたハウンド率いる、灰色の猟兵団の連中だ。
まさかそんなのと組まされるとはな、偶然ではあるんだろうけど。
「何だ? ビビってんのか? 安心しろ、仕事が始まれば馬鹿に付き合っている暇なんてないからな。だけど身の程は弁えろよ? お前らはどうせ足手まといなんだから、俺達の言うとおりにしていろや」
小馬鹿にするように俺たちを笑い飛ばしながら、森を突き進んでいく。
それにしても、あのハウントとかいう男、両脇に犬を同行させてるな。
おそらく猟犬のつもりなのだろうが、犬を利用した戦い方も出来るってことか。
剣の他に、腕にもクロスボウタイプの弓が仕込んであるし、中々攻撃手段は多彩なのかもしれない。
それにしても引き連れている猟犬もやりそうだな。見た目はチズムというエンシェント・グレイハウンドに近い。
地球では既に絶滅していた犬だな。シャープな体付きでロウソクの炎みたいな耳、灰色の毛並みをしている。
それが二匹、地面に鼻を近づけたりしながらハウンドの横を歩いている。
「そろそろか――」
ハウンドはそう呟くと、GO! と猟犬に声を掛ける。
すると猟犬二匹が先ず前に飛び出て、かと思えば唸り声を上げ吠え始めた。
その途端、森の奥から矢が飛来。だが猟犬はそれに見事食いつき、そのまま噛み砕いた。
すると一匹が森の奥に飛び込み、ギャッ! という奇妙な悲鳴。
ゴブリンの喉笛に噛み付いた猟犬がゴブリンを咥えたままくるくると回転しながら戻ってきて地面にゴブリンを押し付けると、そのまま首を引きちぎった。
「はっはっは流石俺の飼いならした猟犬よ、てめぇなんかよりよっぽど使えるぜ」
そして俺の方を見ながら皮肉るように笑い、発す。
「ふん、なんなのじゃあやつは。ゴブリンを狩らせたぐらいで偉そうなのじゃ」
「そうだな、だがネメアも芸じゃ負けてないぞ。ほら、お手」
「ワン! て、ふざけるななのじゃーー!」
怒るネメア。ノリはいいな。だけどなネメア、お前は間違っている。獅子ならネコ科なんだからニャーだ。
「それにしても嫌な連中っすね」
『感じが悪いのです――』
マイラとシェリナが呆れ顔で述べる。確かにな。それにこいつは――
ステータス
名前:ハウンド ドーグ
性別:男
レベル:30
種族:人間
クラス:狩猟戦士
パワー:320
スピード:310
タフネス:300
テクニック:320
マジック:0
オーラ :280
固有スキル
猟犬の鼻、猟犬強化、猟矢の征矢、三羽の征矢、牙狼剣、靱切り
スキル
高速連射、猟犬掌握、猟犬躾術、痕跡調査、罠感知、罠解除、毒調合
称号
裏切者(隠蔽中)、山師、犬使い
これだからな――自信があるだけあって、LVはかなり高い、が、それよりも不吉なのは称号だ。犬使いはともかくとして、裏切者と山師って……しかも裏切者は隠蔽しているし、山師にしても裏切者と組み合わせると一気に胡散臭くなる。
山師には詐欺師という意味合いもあるからな。全く本当に胡散臭い奴らだよ。
だから、俺達は出来るだけ連中から少し離れた位置からついていく形で様子を見る。
あいつらも邪魔するなと言っていたぐらいだし、そのことについては嫌味を言ってくるぐらいで文句は言ってこなかった。
ゴブリンは、さっきのアーチャータイプといい、やはりクラス持ちばかりだ。LVも10超えは普通にいる。
だけど連中は腕に自信ありそうなだけあってか苦戦する様子は全く見せない。
特にハウンドは犬をけしかけるだけじゃなく、自らも腕に備わった武器、本人曰くアームシューターらしいが、それで次々とゴブリンを射抜き、もう片方の剣でも切りまくっていく。
「もしかしてあたしたちに出番ないっすか?」
「いや、そろそろ準備しておいたほうがいい。昨日話したゴブリンの密集地帯が、この周辺まで移動してきていた。この量だと流石に奴らだけで殲滅とはいかないだろうし、何より――」
と、口にした直後から四方八方から奇声を上げてゴブリンが襲い掛かってきた。
連中はハウンドの猟犬の反応で近くにゴブリンの集団がいることまでは察していただろうが、まさかその数が百を超えているとは思っていなかった事だろう。
「チッ! 量だけ揃えたところで所詮はゴブリン! 蝿がいくらたかったところで蝿でしかねぇんだよ!」
いやいや、蝿もあまりあなどれないよ? あれで病原菌持ちもいるから、集団で来られたら思わぬ被害にあいかねない。
まぁ、流石にゴブリンは病原菌持ちってことはないが、それでもこれだけの集団となると厄介なタイプも加わってくる。
正確に言えば冠種のゴブリンリーダーやゴブリンボスがこの中に紛れ込んでいた。
このタイプは更にLVは上だからな、リーダーはLV18前後、ボスで25前後だ。
クラスもゴブリンより良さげなのを与えられている。とりあえず俺達の方に向かって来たボスは猛戦士のクラス持ちだった。
「な、なんかデカイのが来たっす!」
「ゴブリンボスだ。強敵だが、マーラなら勝てない相手じゃないぞ!」
マイラのレベルも帝都での戦いもあって上昇してるしな。
「だ、だったら新しく覚えた魔法を試すっす」
お? 昨晩パーパから受け取った魔導書をもう読破したのか?
そういえば朝はちょっと眠そうにしてたな。新しい魔法を覚えようと頑張った証拠か。
「――バーニングショットっす!」
そして詠唱を終えた後、左手で魔法を行使。向かってくるゴブリンボスへ大きめな火の玉が飛んで行く。
だけど、速度が遅いか? そう思っていたら、少し進んですぐに弾け、細かくなった火炎弾がボスやその周辺にいた他のゴブリン達に命中していった。
なるほど、散弾タイプの魔法ってわけだな。
特にボスは身体が大きいから、被弾数が多いな。けど、タフなのか怯むことはなく唸り声を上げてマイラに迫る。
「折角だから新武器も試すっす!」
そして、昨日手に入れたアブラソメビに火を近づけ、轟々と剣から火吹が上がった。
これにはハウンドも驚きの声を上げているが。
「あいつ、魔法剣士だったのか?」
残念ながらそれは違う。武器の効果だな。だけど、纏われた炎は魔法剣と勘違いされるぐらい程の威勢ってわけか。
「隼斬りっす!」
そして、更に一閃。どうやら新技のようだな。剣速が瞬時に加速した。
ゴブリンボスではあれは避けきれないだろう。
「グォオオオォオオオオ!」
「マイラ、その一撃は絶対に避けろ!」
ゴブリンボスが手持ちの斧で反撃を試みる。しかしマイラの動きは素早い。
危なげなく回避したが、振り下ろされた先の地面が見事に陥没した。
「やっぱり力はあるっすね……でも当たらなきゃ意味が無いっす!」
まさにそのとおりだ。肉を切らせて骨を断つという固有スキル持ちだけに、攻撃を受けながらの反撃は威力がより乗るが、こいつはスピードがない。
マイラの動きにはついていけないだろう。
さて、そんな事を思いつつも俺も近づいてきたゴブリンを排除している。
折角だからあいつが言っていた針術師という肩書きは利用させてもらうか。
忍気手裏剣で針状の得物を生み出し、それでゴブリンを片付けていく。
少し離れた位置にいるゴブリンも針を投げて倒していった。
「あの連射……針千本まで使用できるのか。小生意気な奴だぜ――」
いえ、ただ手裏剣を投げまくってるだけなんですが、どうやら針千本というスキルに該当するらしい。
なんかただ記号の羅列でごまかすより良さそうだな。今度調べて、そっちに切り替えていこう。
「喰らえ! 針千本!」
折角だから、俺もそれっぽく叫んで使ってみた。ゴブリンが次々と針まみれになっていく。
「あいつ、針が一部貫通してやがる。さては針通しのスキルまで持ってやがるな――」
どんどん情報よこしてくれるなこいつ! 貫通する針は針通しね。嫌な奴だけど、今は感謝しておこう。
『流石正義の味方は針にも精通しているのですね!』
「我は、あやつ、ただのお調子者なだけだと思うのじゃが――」
うるさいよネメア。まぁでも、そんなことをブツブツいいながらも近づいてくるゴブリンをネメアは一掃してくれている。
流石ゴブリン程度じゃ苦戦もないか。
「やったっす! ボスを倒したっす!」
そしてマイラと戦っていたゴブリンボスが倒れると、かなり嬉しいのか歓喜の声を上げていた。
しかし黒焦げだなゴブリンボス。
「あれ、食べられるかのう?」
「やめとけ、腹壊しそうだし」




