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やり直すほど、弱くなる ~死に戻りの代償は寿命。無能の僕が『英雄の再来』と囁かれる理由を、僕だけが知らない~  作者: ふゆう
第一章 無能の始まり

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第21話『あの人の言葉』

「一人で、背負わないでください」



新人の少年が口にしたその言葉に、私はほんの少しだけ、足を取られた。


似ている。言い方も、声も、まるで違うのに。触れてくる場所だけが、同じだった。


――ずっと昔に、似たようなことを言われたことがある。



まだ、この体が今ほど言うことを聞かなかった頃。


私たちの集まりは、組織と呼ぶのもおこがましい、ただの寄せ集めだった。行き場のない者が転がり込んできては、また出ていく。看板も、規律も、ろくにない。


その真ん中に、あの人はいた。


「なあ。飯、まだか」


「まだです。……というより、あなたが薪を取ってくると言って、二時間、戻ってきませんでしたね」


「いや、それがな。途中で子どもが泣いてて」


「またですか」


「またなんだ」


悪びれもせず笑うその顔を、私は今でもよく覚えている。


強い人だった。強かったはずなのに、記憶の中のあの人は、なぜか、こういう間の抜けた顔ばかりしている。


書きものは苦手で、名簿はいつも私が付けた。日が高いうちから寝ていることもあった。誰かに頼られると断れず、その日の食いぶちまで人にやってしまうような、いい加減な人だった。


「あなた、団の長という自覚はあるんですか」


「ない。だいたい、誰が長だなんて決めた」


「みんなが、あなたに聞きに来るからです」


「じゃあ、俺じゃなくてお前に聞くように言っといてくれ」


そう言って、あの人は寝返りを打った。三日後には、また誰かの厄介ごとを背負い込んで帰ってきた。


それでも、あの寄せ集めは、あの人を中心に回っていた。


理由は、今なら分かる。


あの人は、誰のことも、数に入れていなかった。強い者も、弱い者も、昨日来たばかりの者も。全部、同じ重さで扱っていた。



当時の私は、それが気に入らなかった。


弱い者を同じように扱えば、そのぶん誰かが割を食う。守るには力がいる。力のない者を守れるのは、力のある者だけだ。


だから私は、強くなろうとした。


誰よりも早く起きて、誰よりも長く鍛えた。段取りを覚え、地形を覚え、危険を数え上げた。全部、私が背負えばいい。そう思っていた。


新入りの護衛を任された日も、そうだった。


「手伝おうか」


「結構です。人数を増やせば、それだけ穴が増えます」


「……そうか」


あの人は、何か言いたげにしていたけれど、結局、頷いた。私を止めなかった。


今にして思えば、それは信頼だったのだろう。あるいは、そう信じたかっただけかもしれない。



結果は、惨敗だった。


私の組んだ経路は、読まれていた。伏せられた敵は、私の想定の倍。前を守れば後ろが崩れ、後ろへ戻れば前が食われた。


私は速かった。誰よりも速く動けた。


それでも、体は一つしかなかった。


叫べば、誰かが応えてくれたかもしれない。助けを呼べば、間に合ったかもしれない。でも私は、呼ばなかった。呼べなかった。これは私が引き受けた仕事で、私が失敗を認めることは、私が弱いと認めることだったから。


目の前で、新入りが二人、地に伏せた。名前を覚えたばかりの子たちだった。片方は、昨日、私に焼き菓子を分けてくれた。もう片方は、いつか私みたいになりたいと、恥ずかしそうに笑っていた。


手を伸ばした。届かなかった。


私は、四人しか連れて帰れなかった。連れて出たのは、六人だったのに。



その夜、私は誰もいない裏手に座り込んでいた。


血を拭うことすら、忘れていた。頭の中は、ただ真っ白で。それでいて、同じ問いだけが、ぐるぐると回っていた。


私がもっと強ければ。私がもっと先を読めていれば。私が、もっと。


足音が近づいてきて、隣に、どさりと誰かが座った。


あの人だった。


叱られる、と身構えた。責められて当然だと思った。


けれど、あの人は何も言わずに、湯気の立つ椀を、私の膝の上に置いた。


「食え。冷めるぞ」


「……食欲は、ありません」


「知ってる。それでも食え。腹が減ってるやつの後悔は、たいてい実物より重い」


言われるまま、一口すすった。塩気が強すぎて、しょっぱかった。あの人が作ったものは、だいたい、いつもそうだった。


しばらく、二人とも黙っていた。虫の声だけが、やけに大きかった。


「……私の、責任です」


やっと絞り出した声は、みっともなく震えていた。


「私が全部、背負うはずでした。なのに、二人も」


「うん」


「……慰めないんですね」


「慰めても、あの二人は帰ってこないからな」


その言葉は、冷たいはずなのに。不思議と、突き放されたようには聞こえなかった。


あの人は、膝を抱えたまま、夜空を見上げていた。


「なあ。ひとつだけ、言っていいか」


「……はい」


「一人で背負うな」


その声は、静かだった。


「こぼれそうなものは、みんなで持てばいい。……俺たちは、そのために群れてるんだろう」


胸の奥を、まっすぐに射抜かれた気がした。


「……でも。私が背負わなければ、誰かが背負うことになります」


「そうだな。だから、みんなで持つんだ」


なんでもないことのように、あの人は言った。


「一人が全部持つと、その一人が転んだ時に、全部落ちる。……お前が今日、そうだったみたいにな」


言葉が、出なかった。


顔を上げた私に、あの人は、ばつが悪そうに頭を掻いた。


「まあ、俺が言えた義理じゃないけどな。薪ひとつ、まともに取ってこられん男だし」



その夜のことを、私は今も覚えている。


椀の熱さも、塩辛さも。あの人の、少し猫背の背中も。


あの人は、もういない。


いつからいないのか、どうしていなくなったのか。それすら、私は正しく語ることができない。ある日を境に、あの人の姿は、この世界のどこにもなくなっていた。


残ったのは、あの人が作った寄せ集めと、そこから育った今の団と。それから、あの言葉だけだった。


あの言葉だけが、私の中に残った。私はそれを大事に、大事に、抱えてきた。誰にも渡さないように。


――そう。


抱えて、きてしまった。


一人で背負うな、という言葉すら。私は、一人で背負ってきたのだ。


「仲間を、一人もこぼさない」


それが私の誓いになった。けれどいつのまにか、それは「私が失敗してはならない」という意味に、すり替わっていた。


だから今も、私はすべてを自分の頭の中で組み立てる。誰にも預けない。預ければ、その人が背負うことになるから。


……あの人が言いたかったのは、たぶん、そういうことでは、なかったのに。



「――お嬢?」


声に、意識が引き戻された。


黒く濁った水路。並ぶ倉庫。そして、私を見上げている、頼りない新人の顔。


一人で、背負わないでください。


なぜ、あなたがそれを言うのか。


私は、この子を知らない。落ちてきたばかりの、無能と呼ばれる、G1の子。あの人とは、顔も、背丈も、声も、何ひとつ似ていない。


それなのに。


なぜ、この子の言葉は、あの夜と同じ場所に触れてくるのだろう。


……いいえ。考えすぎだ。あの言葉は、そう珍しい言い回しでもない。誰が口にしたって、おかしくはない。


そう自分に言い聞かせて、私は雑念を振り払った。今は、目の前のことだけを考えるべきだ。


「……ユウマ」


「は、はい」


「――全員、集まりなさい」


私は、水路に背を向けて言った。


「段取りを、共有するわ。逃げ道も、集合地点も、はぐれた時の判断も。全部」


団員たちが、驚いたように顔を見合わせる。当然だ。私は今まで、こんなことをしたことがなかった。


「……珍しいこともあるもんだね」


ツグミが、ひゅう、と口笛を吹いた。


私は答えなかった。


ただ、胸の奥で、ずっと固まってい

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