第7話 御屋形様が崩れると、全員崩れる
強い組織には、
必ず“中心”がある。
それは力ではない。
流れだ。
府内の空気は、
少しずつ動き始めていた。
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止まりかけていた流れが、
わずかに戻っている。
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宗麟が笑うようになったからだ。
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それだけで、
家臣たちの呼吸が変わる。
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ハリーは、
城の廊下を歩きながらそれを見ていた。
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「……面白い」
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独り言のように呟く。
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未来でも、
同じだった。
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会社。
組織。
家庭。
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中心が壊れると、
全部崩れる。
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「何が面白い」
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後ろから声。
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振り返ると、
戸次鑑連が立っていた。
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相変わらず、
雷のような圧がある。
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だが。
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昨日より、
少し呼吸が深い。
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「あなた、
昨日少し寝ましたね」
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鑑連の眉が動く。
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「……何故分かる」
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「目」
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「昨日より、
死んでない」
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鑑連が小さく笑う。
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「本当に気味が悪い男だ」
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だがその顔には、
少しだけ興味があった。
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「御屋形様も、
最近顔色が違う」
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「城の空気まで変わった」
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ハリーは頷く。
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「宗麟様が中心だからです」
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鑑連が止まる。
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「……中心?」
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「人間って、
空気に引っ張られる」
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「トップが壊れると、
下も壊れる」
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「逆に、
中心が整うと、
周りも戻り始める」
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鑑連は黙る。
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戦場で、
何度も見てきた。
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総大将が崩れた瞬間、
軍全体が瓦解する光景を。
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だが。
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それを、
“流れ”として考えたことはなかった。
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「……では、
御屋形様が今まで支えていたのか」
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ハリーは静かに答える。
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「無意識に」
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「だから、
宗麟様が壊れると、
全員崩れる」
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その時。
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廊下の向こうから、
別の武将が現れる。
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静かな目。
落ち着いた空気。
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鑑連とは真逆。
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「臼杵鑑速様」
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家臣が頭を下げる。
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臼杵鑑速。
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大友家を支える、
もう一人の柱。
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鑑速は、
ハリーを見る。
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「面白い男だと聞いております」
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声が静かだった。
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だが。
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かなり頭が切れる。
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ハリーは一瞬で分かった。
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「……この人、
空気読めるタイプだ」
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「何か言いましたか」
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「いえ」
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鑑速は、
宗麟の部屋を見る。
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「最近、
御屋形様が少し変わられた」
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「あなたのおかげですか」
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ハリーは首を振る。
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「違います」
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「宗麟様が、
戻ろうとしてるだけです」
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鑑速の目が細くなる。
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その言葉が、
妙に胸へ残った。
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その時だった。
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突然。
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ハリーの視界が揺れる。
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海。
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黒い船。
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異国の旗。
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そして。
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一人の男。
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静かな目。
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感情のない顔。
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その男が、
豊後を見ていた。
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「……っ!」
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ハリーが壁へ手をつく。
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鑑連が動く。
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「どうした!」
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ハリーは、
苦しそうに呼吸する。
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「……来る」
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「何がだ」
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ハリーは、
海の方向を見る。
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「宗麟様を、
“壊そうとする知性”が」
読んでいただきありがとうございます。
ここから、
“大友家の空気”を書き始めています。
宗麟だけでなく、
四人衆それぞれが、
大友という組織を支えていました。
そしてその中心には、
やはり宗麟がいたのだと思っています。




