第6話 雷を背負う男
強い人間ほど、
壊れていることがある。
そして本当に危険なのは、
壊れていることに、
本人が気づいていない時だ。
朝だった。
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府内の空には、
まだ重い雲が残っている。
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だが城内は、
昨日までとは少し違っていた。
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人が動いている。
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止まりかけていた空気が、
わずかに流れ始めていた。
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「御屋形様」
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低い声が廊下へ響く。
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家臣たちが、
一斉に道を開けた。
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一人の武将が、
ゆっくり歩いてくる。
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鋭い目。
重い空気。
そして——
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圧。
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ハリーは、
その男を見た瞬間に分かった。
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「……戦いすぎてる」
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男の眉が動く。
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「何?」
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戸次鑑連。
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後に、
立花道雪と呼ばれる男。
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大友家最強の武人。
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宗麟が静かに言う。
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「鑑連、
こいつがハリーだ」
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鑑連は、
無言でハリーを見る。
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まるで、
敵を見る目だった。
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「御屋形様」
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「この男、
本当に信用できるのですか」
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宗麟は即答しない。
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だが。
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「少なくとも、
俺の呼吸を戻した」
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鑑連の目が、
わずかに変わる。
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「……ほう」
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だが次の瞬間。
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ハリーが言った。
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「あなた、
あと数年で足やりますよ」
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空気が止まる。
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家臣たちの顔色が変わった。
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「無礼者!!」
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「鑑連様になんという——」
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だが。
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鑑連だけは、
黙っていた。
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ハリーは続ける。
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「右足」
「腰」
「呼吸」
「全部無理してる」
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「雷みたいに動いてるけど、
身体はもう悲鳴上げてる」
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鑑連の目が細くなる。
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「……貴様」
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「何故それが分かる」
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ハリーは、
静かに答える。
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「身体が言ってる」
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沈黙。
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長い沈黙だった。
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やがて。
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鑑連が小さく笑う。
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「気味の悪い男だ」
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宗麟が、
少しだけ口元を緩める。
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それを見て、
家臣たちが驚いた。
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最近の宗麟は、
本当に笑わなかったからだ。
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鑑連が宗麟を見る。
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「……顔色が違いますな」
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「何をされたのです」
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宗麟は、
少し考える。
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そして。
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「整えられた」
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鑑連が眉をひそめる。
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「整える?」
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ハリーは、
鑑連の身体を見る。
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強い。
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だが。
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強すぎる。
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この男は、
自分を削って前へ出る。
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だから兵がついてくる。
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だが同時に、
壊れるのも早い。
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「……似てる」
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ハリーが小さく呟く。
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「何がだ」
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「未来で見た、
壊れるリーダーたちに」
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胸が少し痛む。
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未来を言いすぎるな。
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身体が警告してくる。
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ハリーは、
言葉を止めた。
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その時。
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遠くから鐘の音が響く。
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家臣が駆け込んできた。
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「御屋形様!!」
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「島津側の商人船、
豊後沖へ入り始めています!!」
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宗麟と鑑連の目が変わる。
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戦が近い。
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だが。
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ハリーだけは、
別のものを感じていた。
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流れ。
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空気。
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そして。
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誰かが、
こちらを見ている感覚。
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「……来る」
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ハリーが小さく呟く。
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「何がだ」
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宗麟が聞く。
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ハリーは、
海の方を見る。
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「“知ってる奴”です」
読んでいただきありがとうございます。
戸次鑑連(立花道雪)は、
大友家を支えた最強クラスの武将です。
この作品では、
「強さ」と「壊れやすさ」が、
表裏一体として描かれていきます。




