第5話 未来を語れない男
未来を知っているからといって、
人を救えるわけではない。
むしろ、
知っているから苦しむこともある。
雨は、
まだ降っていた。
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宗麟の部屋。
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空気は静かだった。
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だが。
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誰も、
先ほどの出来事を整理できていない。
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「未来……?」
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アルメイダが、
小さく呟く。
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ハリーは、
壁にもたれたまま呼吸を整えていた。
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胸が痛む。
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少し、
喋りすぎた。
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「お前は、
本当に未来から来たのか」
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宗麟の声は静かだった。
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疑い。
恐れ。
そして——
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知りたいという感情。
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全部混ざっている。
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ハリーは、
少しだけ笑った。
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「言おうとすると、
止められる」
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「……誰に」
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「分からない」
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「でも、
未来を変えるようなことを言うと、
身体が止まる」
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宗麟とアルメイダが、
顔を見合わせる。
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理解できない。
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だが。
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嘘を言っている顔ではなかった。
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「では、
未来は決まっているのか」
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宗麟が聞く。
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ハリーは、
しばらく黙った。
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「……分かりません」
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「でも、
流れは変わる」
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「人間が変われば、
未来も少し変わる」
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宗麟は、
静かに目を閉じる。
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未来。
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もし、
自分が敗れる未来を見ているなら。
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それを、
変えられるのか。
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その時だった。
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城の外から、
激しい足音が響く。
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「御屋形様!!」
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家臣が飛び込んできた。
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「島津側の動きが、
妙です!!」
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空気が変わる。
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「何があった」
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「まだ兵は動いておりませぬ」
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「ですが——」
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「城下で、
奇妙な噂が広がっております」
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宗麟の目が鋭くなる。
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「噂?」
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「“大友は終わる”と」
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「“島津に逆らう者は滅ぶ”と」
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部屋が静まり返る。
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戦は、
まだ始まっていない。
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なのに。
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民の空気が、
崩され始めている。
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「……始まったか」
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ハリーが小さく呟く。
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アルメイダが見る。
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「心当たりが?」
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ハリーは、
窓の外を見る。
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暗い空。
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未来でも、
同じだった。
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人間は、
戦う前に壊される。
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「恐怖を流してる」
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「人の感情を、
先に崩してるんです」
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宗麟が低く言う。
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「兵ではなく、
心を攻めているのか」
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ハリーは頷く。
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「だから厄介なんです」
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「恐怖は、
身体の流れを止める」
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「流れが止まると、
人は弱くなる」
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宗麟は、
静かに拳を握った。
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戦国。
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刀だけではない。
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情報。
噂。
感情。
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見えない場所で、
戦は始まっている。
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その時。
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アルメイダが、
小さく呟いた。
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「……似ている」
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「何がだ」
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宗麟が聞く。
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アルメイダは、
ゆっくり答えた。
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「私を失脚させた男です」
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空気が止まる。
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「あの男も、
人の恐怖を使っていた」
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「数字」
「流れ」
「損得」
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「人間を、
駒のように見ていた」
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ハリーの目が細くなる。
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嫌な感覚。
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未来で何度も見た、
“冷たい知性”。
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「……その男は」
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アルメイダは、
静かに宗麟を見る。
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「島津側へ渡った可能性があります」
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雨が強くなる。
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宗麟は、
ゆっくり立ち上がった。
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「面白い」
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その目には、
怒りがあった。
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「ならば、
こちらも流れを読むまでだ」
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ハリーは、
静かに宗麟を見る。
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少しだけ。
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本当に少しだけ。
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大友宗麟という男が、
変わり始めていた。
読んでいただきありがとうございます。
この物語では、
「戦」は刀だけではありません。
恐怖。
情報。
空気。
感情。
人間の“内側”から崩していく戦いも、
描いていきたいと思っています。




