第4話 命を削る整え
人を救うということは、
綺麗なことだけではない。
誰かを支える時、
別の誰かが、
静かに削れていることもある。
夜だった。
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府内の城に、
静かな雨音が響いている。
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宗麟は、
一人で座っていた。
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不思議だった。
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身体が軽い。
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いや。
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完全ではない。
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だが、
ここ数年感じたことのない感覚がある。
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呼吸が、
深い。
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「……何をした」
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宗麟は、
自分の胸へ手を当てる。
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あの男。
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ハリー。
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肩へ触れただけで、
身体の奥が動いた。
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そんなこと、
あり得るのか。
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「御屋形様」
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障子の外から声。
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アルメイダだった。
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「入れ」
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アルメイダが静かに入る。
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だが。
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その表情は、
少し険しかった。
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「……あの男、
今どこにいる」
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「客間です」
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アルメイダは、
一瞬だけ黙る。
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「先ほど、
血を吐いていました」
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宗麟の目が止まる。
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「何?」
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「整えた直後です」
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空気が重くなる。
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宗麟は、
ゆっくり立ち上がった。
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客間。
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薄暗い部屋の中で、
ハリーは静かに座っていた。
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だが。
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口元には、
赤い血が残っている。
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「……お前」
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宗麟が近づく。
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ハリーは、
少しだけ笑った。
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「見られましたか」
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「何をした」
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静かな声だった。
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だが、
怒りが混じっている。
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ハリーは答えない。
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代わりに、
胸へ手を当てる。
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少しだけ顔をしかめた。
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「流れを、
無理やり動かした」
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「その反動です」
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宗麟の眉が動く。
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「反動?」
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「整えるっていうのは、
簡単じゃない」
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「止まった流れを動かす時、
こっちも削れる」
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アルメイダが、
静かに目を細める。
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「……命を使っているのですか」
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ハリーは、
少しだけ黙った。
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そして。
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「未来では、
もっと上手くやれてました」
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小さく呟く。
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「でも、
この時代は重い」
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「人も」
「感情も」
「恐怖も」
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「全部、
重すぎる」
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宗麟は、
ハリーを見る。
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この男は、
本当に命を削っている。
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自分のために。
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宗麟の胸の奥に、
妙な痛みが走った。
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「……なぜだ」
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ハリーが顔を上げる。
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「何故、
そこまでする」
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しばらく沈黙が続く。
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雨音だけが響く。
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やがて。
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ハリーは、
静かに言った。
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「壊れる人を、
見過ぎたんです」
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「未来で」
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宗麟とアルメイダの目が止まる。
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しまった。
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そう思った瞬間。
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空気が、
凍りついた。
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ハリーの胸が激しく痛む。
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「……っ!」
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呼吸が止まる。
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視界が揺れる。
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宗麟が動いた。
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「おい!!」
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ハリーは、
胸を押さえたまま苦しそうに息をする。
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「……言えない」
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「未来を、
話そうとすると……」
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言葉が止まる。
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まるで、
何かに遮られるように。
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アルメイダが息を呑む。
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「……何なんだ、
お前は」
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宗麟の声には、
恐れすら混じっていた。
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だがハリーは、
苦しそうに笑う。
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「ただの、
整体師ですよ」
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その瞬間。
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宗麟は初めて思った。
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この男は、
本当に“異物”なのだと。
読んでいただきありがとうございます。
ここで、
「整えることの代償」が出始めます。
戦国時代の重さ、
感情、
恐怖、
人間の圧力。
ハリーは、
それを身体で受け始めています。




