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第69話 信じる勇気

本当の勝利とは。

敵を倒すことではない。

未来を残すことなのかもしれない。

戦は続いていた。

島津軍の猛攻。

必死に耐える大友軍。

土煙。

怒号。

法螺貝。

戦場はなおも命を奪い続けていた。

その中で。

整命部隊だけは変わらなかった。

敵も。

味方も。

分け隔てなく救い続ける。

傷ついた薩摩兵へ水を運ぶ。

大友兵が担架を支える。

その隣では。

助けられた薩摩兵が。

今度は大友兵を運んでいた。

黄金の天秤は。

その光景から目を離せなかった。

脳裏に浮かぶ。

宗信。

兵糧係。

レオン。

そして。

ハリー。

静かに目を閉じる。

(私は……。)

(何を守ろうとしていた。)

長い年月。

疑うことで国を守ってきた。

裏切りを防ぐため。

民を守るため。

それが唯一の正義だと信じてきた。

だが。

今、目の前にあるものは違った。

信じられた者は。

命を懸けて仲間を守る。

救われた者は。

敵さえ救おうとする。

優しさは。

弱さではなかった。

人を動かす力だった。

黄金の天秤は静かに戦場を見渡す。

豊後には。

豊かな実りがある。

薩摩には。

強い兵がいる。

宗麟には。

人を信じる器がある。

義久には。

国を守る覚悟がある。

ハリーには。

人を整える思想がある。

そして。

自分には。

知略がある。

今までは。

そのすべてが争っていた。

だから力を失っていた。

だが。

もし。

互いの役割を生かせば。

九州は。

一つの大きな力になれる。

武だけではない。

実り。

知恵。

文化。

医術。

信頼。

それらが結びつけば。

中央にも揺るがぬ国になる。

黄金の天秤は。

ようやく理解した。

自然は。

山だけでは成り立たない。

海だけでもない。

風も。

川も。

太陽も。

それぞれ違う役割があるから。

一つの自然になる。

人も同じだった。

国も同じだった。

違うから争うのではない。

違うから支え合える。

静かに微笑んだ。

「私は……。」

「勝ち方を間違えていた。」

「敵を減らすことではない。」

「味方を増やすことこそ。」

「本当の勝利だったのか。」

黄金の天秤は馬を進めた。

義久の前で静かに膝をつく。

「義久様。」

義久は驚いた。

「どうした。」

黄金の天秤は顔を上げる。

「お願いがございます。」

「この戦を。」

「終わらせてください。」

義久の目が揺れる。

「お前が……。」

「そう申すのか。」

黄金の天秤は力強く頷いた。

「はい。」

「私は。」

「疑うことでしか。」

「国を守れないと思っていました。」

「ですが。」

「信じることでしか。」

「守れない未来もあります。」

義久は静かに豊後軍を見る。

宗麟もまた。

戦場の向こうから義久を見つめていた。

長い沈黙。

やがて義久は。

右手を高く掲げた。

「法螺貝を。」

戦場に。

これまでとは違う音色が響く。

停戦の合図だった。

宗麟も静かに右手を上げる。

大友軍も武器を下ろす。

怒号が消える。

風だけが吹く。

ハリーは静かに空を見上げた。

そして小さく呟く。

「人は……。」

「自然の縮図。」

その言葉は。

戦場を吹き抜ける風に乗って。

静かに九州の空へ溶けていった。

違うから。

争うのではありません。

違うからこそ。

支え合える。

自然がそうであるように。

人もまた。

そう生きられるのかもしれません。

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