第70話 受け継がれるもの
本当に受け継がれるものは。
刀でも。
城でもない。
人の心なのかもしれない。
戦は終わった。
静まり返った戦場。
さっきまで響いていた怒号は消え。
風だけが吹いていた。
宗麟は義久の前まで歩み寄る。
義久もまた。
静かに歩み寄る。
互いにしばらく見つめ合う。
そして宗麟が右手を差し出した。
「今日より。」
「敵ではない。」
義久は静かに頷く。
その手を固く握った。
「兄弟として歩もう。」
戦場にいた兵たちは。
誰一人声を出さなかった。
やがて。
自然と拍手が起こる。
大友兵。
薩摩兵。
敵も味方も関係なく。
その音は戦場いっぱいに広がっていった。
黄金の天秤が。
ゆっくりとハリーの前へ歩いてくる。
静かに頭を下げた。
「……ありがとう。」
ハリーは微笑む。
「こちらこそ。」
「エドワード。」
その名を聞いた瞬間。
宗麟も。
義久も。
驚いた。
黄金の天秤ではない。
一人の人間。
エドワードとして。
初めて呼ばれた瞬間だった。
エドワードは静かに笑った。
その時だった。
ハリーが胸を押さえる。
激しい痛み。
今までとは違う。
アルメイダが駆け寄る。
「ハリー!」
宗麟が支える。
義久も駆け寄る。
エドワードも膝をつく。
「ハリー!」
ハリーは静かに笑った。
「もう……。」
「時間のようです。」
宗麟の手を握る。
「宗麟様。」
「あなたが信じた道は。」
「必ず未来へ続きます。」
「人が誇れる国になります。」
宗麟の目から涙がこぼれる。
続いて義久を見る。
「義久様。」
「薩摩は。」
「これからも強い国であり続けます。」
「ですが。」
「その強さは。」
「人を守るために使ってください。」
義久は深く頷いた。
そして。
エドワードを見る。
「エドワード。」
「あなたの知恵は。」
「これから多くの命を守ります。」
「疑うためではなく。」
「未来を守るために。」
エドワードは震える声で尋ねた。
「なぜ……。」
「そんな未来が分かる。」
ハリーは静かに空を見上げた。
「少しだけ。」
「未来を見てきました。」
三人は意味が分からない。
ハリーは微笑み続ける。
「安心してください。」
「あなたたちが今日選んだ道は。」
「九州を変えます。」
「日本を変えます。」
「未来へ受け継がれます。」
風が吹く。
山がある。
川が流れる。
海が輝く。
人が笑う。
自然は。
何一つ争っていなかった。
「だから。」
「もう……。」
「大丈夫です。」
ハリーは静かに目を閉じた。
その表情は。
まるで眠るようだった。
――――――――
鳥のさえずり。
風鈴の音。
柔らかな朝日。
ゆっくりと目を開く。
見慣れた天井。
別府の自宅だった。
長い眠りについていた身体が。
ゆっくりと目覚める。
窓の外から。
子どもたちの笑い声が聞こえる。
ハリーは静かに起き上がる。
窓を開ける。
別府湾。
鶴見岳。
朝日に照らされる町並み。
胸へ手を当てる。
鼓動は穏やかだった。
静かに微笑む。
「……帰ってきた。」
朝日を見つめながら。
小さく呟く。
「人は自然の縮図。」
「今度は。」
「この時代を整えよう。」
朝日が。
山を照らす。
海を照らす。
町を照らす。
そして。
一人ひとりを優しく照らしていた。
時代は変わっても。
自然は変わりません。
人もまた。
自然の一部です。
そのことを忘れない限り。
未来はきっと。
もっと優しくなれるはずです。
― 完 ―
ここまで『大友宗麟を整えた男 ―戦国を変えた“内側の軍師”―』を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
この作品で一番伝えたかったことは、「人は自然の縮図」という考え方です。
戦国時代を舞台にしましたが、この物語は現代を生きる私たちへの物語でもあります。
この作品が、誰かの心や身体、そして人生を整える小さなきっかけになれたなら、これほど嬉しいことはありません。
本当にありがとうございました。




