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第67話 二人の王の間合い

本当の覚悟は。

刀を抜く前に。

試される。

豊後と薩摩。

両軍は広大な野で向かい合っていた。

風が吹く。

無数の旗が揺れる。

法螺貝が響く。

太鼓が鳴る。

しかし。

誰一人として動かない。

何千という兵が。

ただ相手を見つめていた。

張り詰めた空気。

息をのむ静寂。

その時だった。

宗麟が手綱を握る。

馬が一歩前へ出た。

「殿!」

鑑連が叫ぶ。

「なりませぬ!」

「敵の間合いです!」

アルメイダも馬を進める。

「宗麟様!」

「どうか、お戻りください!」

宗麟は静かに首を振った。

「王は。」

「民に命を懸けよと言う。」

一度だけ前を見つめる。

「ならば。」

「王もまた。」

「命を懸けねばならぬ。」

そう言うと。

宗麟は一人。

ゆっくりと馬を進めた。

大友軍がどよめく。

その様子を。

薩摩軍も見ていた。

黄金の天秤が目を見開く。

「義久様。」

「お下がりください。」

「これは罠かもしれません。」

義久は宗麟から目を離さない。

「違う。」

静かに答えた。

「覚悟だ。」

黄金の天秤はなおも止める。

「敵の間合いへ入るなど。」

「一国の主がなさることではありません。」

義久は微笑みもせず言った。

「私が民に。」

「命を懸けよと言いながら。」

「自分だけ。」

「安全な場所にいて。」

「何が王だ。」

そう言うと。

義久もまた。

一人で馬を進めた。

薩摩軍もどよめく。

両軍が息を呑む。

鑑連は弓を握る。

一本の矢をつがえる。

黄金の天秤も全軍へ命じる。

「いつでも動け。」

アルメイダは静かに祈る。

ハリーだけは。

二人の王を見つめていた。

馬の足音だけが響く。

ゆっくり。

また一歩。

さらに一歩。

やがて。

二人の王は。

互いの顔が見える距離で馬を止めた。

刀は抜かない。

誰も声を出さない。

長い沈黙。

やがて義久が口を開く。

「宗麟。」

宗麟も静かに応じる。

「義久。」

再び沈黙。

義久が言う。

「良い家臣を持ったな。」

宗麟は鑑連たちを見つめる。

「お前もだ。」

義久は頷く。

「守るものがある限り。」

「私は退かぬ。」

宗麟も答える。

「私もだ。」

それ以上。

言葉はいらなかった。

二人は静かに馬首を返す。

その瞬間。

法螺貝が天地を震わせた。

太鼓が鳴る。

旗が一斉にはためく。

両軍が動く。

誰も。

憎しみでは動いていない。

守るために。

それぞれの覚悟を胸に。

戦が始まった。

本当に強い者は。

相手を知ろうとします。

本当に大きな王は。

命を懸けてでも。

民の先頭に立つのです。

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