第66話 守るために薩摩も出陣
守るものが違えば。
進む道も違う。
薩摩。
夜明け前。
城下町はまだ眠りについていた。
家々の煙突からは、朝餉の煙が静かに立ち上る。
畑には朝露。
子どもたちはまだ夢の中。
その景色を。
義久は天守から静かに見つめていた。
足音が響く。
黄金の天秤だった。
「ご報告申し上げます。」
「出陣の準備、すべて整いました。」
義久は振り返らない。
「兵糧は。」
「三十日分、確保しております。」
「鉄砲隊。」
「配置完了。」
「先鋒も待機しております。」
しばらく沈黙が流れた。
義久は小さく息を吐く。
「……いよいよだな。」
黄金の天秤は頷く。
「はい。」
「我らが動けば。」
「豊後も必ず動きます。」
義久は静かに答えた。
「当然だ。」
「動かしたのは。」
「我らなのだから。」
黄金の天秤は義久の横に立つ。
二人は城下町を見下ろした。
痩せた畑。
乾いた大地。
決して豊かな国ではない。
義久が静かに口を開く。
「この国は。」
「自然が厳しい。」
「民は懸命に生きている。」
「だが。」
「生きるためには。」
「土地も。」
「食も。」
「守らねばならぬ。」
拳を静かに握る。
「だから私は戦う。」
「民を飢えさせぬために。」
黄金の天秤は頷く。
「宗麟は敵です。」
義久はしばらく黙っていた。
そして静かに言う。
「敵だ。」
「だが。」
「悪ではない。」
黄金の天秤の表情がわずかに揺れる。
「宗麟も。」
「私も。」
「守りたいものは同じだ。」
「違うのは。」
「その守り方だけだ。」
黄金の天秤は言葉を失う。
脳裏に浮かぶ。
兵糧係を救ったハリー。
敵国の親子へ食事を与えた宗麟。
敵兵さえ救おうとした整命部隊。
だが。
黄金の天秤は静かに目を閉じる。
「……それでも。」
「私は。」
「疑うことでしか。」
「民を守れなかった。」
義久は何も答えなかった。
それぞれの正義。
それぞれの過去。
それぞれの覚悟。
そのすべてを背負って。
法螺貝が鳴り響く。
城門が開く。
義久は馬へまたがる。
薩摩兵が続く。
義久は豊後の空を見つめ。
静かに呟いた。
「宗麟。」
「互いに。」
「守るべきもののために。」
「悔いなき戦を。」
薩摩軍は進む。
その足音は。
やがて豊後へ届く。
二人の王は。
まだ互いを知らない。
だが。
二人とも。
民を守るために歩いていた。
同じ戦でも。
戦う理由は。
人それぞれ。
だからこそ。
本当に見るべきものは。
刀ではなく。
その人が何を守ろうとしているのか。
なのかもしれません。




