第65話 覚悟
戦うためではない。
守るために。
覚悟を決める日がある。
府内城。
一頭の早馬が城門へ駆け込んだ。
「急報!」
「島津軍、動きました!」
城内の空気が一変する。
家臣たちは一斉に立ち上がった。
静かに。
宗麟も立ち上がる。
「……そうか。」
ただ一言。
それだけで十分だった。
「出陣する。」
家臣たちが頭を下げる。
城全体が動き始めた。
鎧を身につける者。
槍を運ぶ者。
馬を整える者。
それぞれが、自分の役割へ向かう。
――――――――
鑑連は静かに弓を手に取る。
一本。
一本。
矢を確かめる。
「この弓は。」
「人を殺すためではない。」
「守るために引く。」
誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
――――――――
アルメイダは薬箱を開く。
薬草。
包帯。
針。
一つずつ確かめる。
「今日は。」
「敵も味方もない。」
「救える命は。」
「すべて救う。」
静かに十字を切った。
――――――――
整命部隊も準備を始める。
担架。
水。
食料。
兵たちは互いに笑顔を向け合う。
かつて恐怖に震えていた兵たちの姿は、もうなかった。
守る覚悟が。
その顔に宿っていた。
――――――――
城門の前。
宗麟はハリーを呼ぶ。
「ハリー。」
「はい。」
「最後まで。」
「人を憎まぬのだな。」
ハリーは静かに頷く。
「はい。」
「みんな自然の一部です。」
「価値観も違います。」
「思想も違います。」
「役割も違います。」
「それが自然です。」
宗麟は静かに聞いていた。
ハリーは続ける。
「ですが。」
「人の心の自然が壊されること。」
「人の身体の中の自然が壊されること。」
「それだけは。」
「見過ごすことはできません。」
宗麟が問う。
「それでも。」
「戦うのか。」
ハリーは朝日を見つめた。
「はい。」
「人を憎むためではありません。」
「守るためです。」
「守ることを諦めないために。」
宗麟は深く頷く。
「ならば。」
「共に行こう。」
「守るための戦へ。」
――――――――
ゆっくりと。
府内城の城門が開く。
朝日が甲冑を照らす。
宗麟が馬へまたがる。
鑑連が続く。
アルメイダが続く。
整命部隊が静かに歩き出す。
ハリーは最後に一度だけ振り返った。
朝日に照らされた府内城。
城下町。
笑顔を取り戻した人々。
その景色を胸に刻む。
そして前を向く。
法螺貝が鳴り響いた。
大友軍は。
静かに。
戦場へ向かって歩き始めた。
覚悟とは。
恐れがなくなることではありません。
恐れがあっても。
守りたいもののために。
一歩を踏み出すことなのかもしれません。




