第64話 調和
自然は。
同じものだけでは。
成り立たない。
府内城。
朝の庭園。
鳥のさえずりが響く。
風が木々を揺らし。
池には鯉が静かに泳いでいた。
宗麟は庭を歩いていた。
その隣にはハリーがいる。
宗麟が口を開く。
「ハリー。」
「一つ、聞いてもよいか。」
「もちろんです。」
「お前は。」
「人は自然の縮図だと言った。」
「私は、その意味をもっと知りたい。」
ハリーは答える代わりに、一輪の薔薇の前で立ち止まった。
「宗麟様。」
「この花を美しいと思う人もいます。」
「ですが。」
「棘があるから嫌いだと言う人もいます。」
宗麟は小さく頷く。
ハリーはそのまま歩き、小さなカスミソウを見つめた。
「こちらは一本では目立ちません。」
「ですが。」
「花束になれば、美しい花を引き立てます。」
宗麟は静かに花を見つめる。
ハリーは池を指差した。
「海で生きる魚もいます。」
「川でしか生きられない魚もいます。」
「草を食べる命もあります。」
「肉を食べる命もあります。」
「天敵もいます。」
「互いに助け合う命もあります。」
「違うものばかりです。」
宗麟は空を見上げた。
「それでも自然は乱れぬ。」
ハリーは微笑む。
「はい。」
「自然は違いを消そうとはしません。」
「違いがあるからこそ。」
「絶妙な均衡を保っています。」
少し沈黙が流れる。
やがてハリーは、自分の胸に手を当てた。
「人の身体も同じです。」
「五臓六腑には、それぞれ違う役割があります。」
「身体をつくる無数の細胞も。」
「互いに支え合っています。」
「一つの臓器だけでは生きられません。」
「一つの細胞だけでも生きられません。」
「水だけでも。」
「一つの栄養だけでも。」
「命は支えられません。」
「それぞれが役割を果たし。」
「互いに影響し合い。」
「一つの命になります。」
宗麟は静かに耳を傾ける。
「人も自然も。」
「違うもの同士が支え合うことで成り立っています。」
「だから私は。」
「病だけを見ません。」
「身体の中の調和を見ます。」
風が吹き抜けた。
木々の葉が揺れる。
鳥が空へ舞い上がる。
宗麟はゆっくり目を閉じた。
そして静かに呟いた。
「整えるとは……。」
「病と戦うことではない。」
「失われた調和を取り戻すことなのだな。」
ハリーは深く頷いた。
「はい。」
「人を変えることではありません。」
「その人が本来持っている力が、もう一度支え合えるようにすることです。」
「それが私の考える『整え』です。」
宗麟は庭を見渡した。
薔薇も。
カスミソウも。
大木も。
小さな草も。
どれ一つとして同じものはない。
それでも。
庭は一つの美しさを生み出していた。
宗麟は静かに笑う。
「なるほど……。」
「人もまた。」
「違うからこそ、美しいのだな。」
朝日が庭全体を照らした。
その光は。
誰一人選ぶことなく。
すべての命へ降り注いでいた。
調和とは。
同じになることではありません。
違いを認め。
互いを生かし合うこと。
自然も。
人の身体も。
その調和の中で生きているのかもしれません。




