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第63話 敵とは

敵とは。

本当に。

人なのでしょうか。

豊後と薩摩の国境。

山道を。

一組の親子が歩いていた。

父。

そして。

幼い娘。

二人とも痩せ細り。

足元もふらついている。

娘が小さく呟いた。

「お父さん……。」

「お腹すいた……。」

父は立ち止まった。

娘を抱きしめる。

「もう少しだ。」

そう言った声には。

自分に言い聞かせるような弱さがあった。

その時だった。

「止まれ!」

大友の国境警備兵が現れる。

槍を構える。

「薩摩の者だな。」

父は娘を背中へ隠した。

「申し訳ありません。」

「食べ物を探して……。」

兵は険しい顔をする。

「敵国の者を通すわけにはいかぬ。」

その場へ。

整命部隊の巡回を終えたハリーが現れた。

「どうしました。」

兵は事情を説明する。

ハリーは。

父を見る。

娘を見る。

何も言わない。

ただ。

娘の唇が乾き。

立っているのもやっとだと分かった。

静かに言う。

「府内へ使いを。」

「宗麟様のご判断を仰ぎましょう。」

兵はすぐに早馬を走らせた。

――――――――

府内城。

宗麟は報告を受ける。

「国境に薩摩の親子が現れました。」

「飢えております。」

「どういたしましょう。」

部屋が静まる。

家臣の一人が口を開く。

「敵国の者です。」

「追い返すべきかと。」

宗麟は静かに目を閉じた。

そして。

ゆっくりと言う。

「食事を与えよ。」

家臣たちが顔を上げる。

宗麟は続けた。

「飢えた者に。」

「敵も味方もない。」

「食事を終えたなら。」

「無事に帰してやれ。」

その言葉だけだった。

――――――――

国境。

宗麟の命が届く。

兵は静かに頷いた。

ハリーは娘へ温かい粥を差し出す。

娘は夢中で食べた。

父は何度も頭を下げる。

「ありがとうございます……。」

「本当に……。」

ハリーは微笑む。

「どうか。」

「ご無事で。」

父は娘の手を握り。

薩摩への道を歩き始めた。

――――――――

数日後。

薩摩。

村人たちが親子を迎える。

「豊後だったのでは?」

父は静かに頷いた。

「ああ。」

「飯を食わせてもらった。」

「帰してもらった。」

その話は。

やがて義久のもとへ届く。

黄金の天秤が言う。

「罠かもしれません。」

義久は静かに首を振る。

「違う。」

「飢えた民へ飯を与える。」

「それは。」

「王の器だ。」

黄金の天秤は黙った。

その夜。

親子は囲炉裏を囲んでいた。

娘が父を見る。

「お父さん。」

「豊後の人。」

「優しかったね。」

父は頷く。

娘は。

火を見つめたまま。

小さく呟く。

「敵って……。」

少し考えて。

もう一度聞いた。

「敵って……ほんとにいるの?」

父は答えられなかった。

囲炉裏の火だけが。

静かに揺れていた。

山では。

鹿が国境を越える。

空では。

鳥が薩摩から豊後へ飛ぶ。

川は。

誰にも止められることなく流れていた。

自然は。

国境を知らない。

その夜。

薩摩にも。

豊後にも。

同じ月が浮かんでいた。

人は。

国境を引きます。

自然は。

境界を知りません。

敵とは誰なのか。

その答えは。

物語の中ではなく。

読む人、一人ひとりの心の中にあるのかもしれません。

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