第62話 守る者たち
人は。
守るものによって。
生き方が変わる。
薩摩。
朝霧が山々を包んでいた。
島津義久は。
静かに田畑を見つめていた。
稲は細い。
土は痩せている。
家臣が頭を下げた。
「黄金の天秤より報告です。」
「整命の噂は収まり。」
「民は再びハリーを信じ始めました。」
義久は振り返らない。
「そうか。」
それだけだった。
やがて。
静かに尋ねる。
「今年の実りは。」
家臣は目を伏せた。
「昨年より少のうございます。」
義久は空を見上げる。
「だから。」
「戦う。」
家臣は息をのんだ。
「民を飢えさせぬためだ。」
「王とは。」
「民を生かす者。」
「そのためなら。」
「我らは修羅にもなる。」
その瞳に迷いはなかった。
黄金の天秤は。
静かに頭を下げる。
「御意。」
彼もまた。
その覚悟を知っていた。
民族を失い。
仲間を失い。
信じた者を失った。
だからこそ。
人を簡単には信じない。
疑うこと。
見抜くこと。
生き残ること。
それが彼の正義だった。
「人は裏切ります。」
黄金の天秤は静かに言う。
「だから私は。」
「人の心を読むのです。」
義久は否定しない。
「それも。」
「お前の戦いだ。」
――――――――
一方。
豊後。
豊かな田が風に揺れていた。
南蛮船が港へ入る。
子どもたちが笑う。
宗麟はその景色を見つめていた。
「豊後は恵まれている。」
「だからこそ。」
「人の心も豊かにしたい。」
文化。
学問。
医術。
新しい知恵。
未来へ残るものを育てたい。
それが宗麟の願いだった。
その隣で。
ハリーも田を見つめていた。
宗麟は尋ねる。
「ハリー。」
「お前は。」
「戦をどう思う。」
ハリーは静かに答えた。
「自然にも。」
「弱肉強食があります。」
宗麟は少し驚く。
ハリーは続ける。
「私は。」
「それを否定しません。」
「それも自然の摂理だからです。」
吹き抜ける風。
揺れる稲穂。
鳥が空を舞う。
「ですが。」
「人には。」
「自然にはない力があります。」
宗麟は耳を傾ける。
「弱い者を支え。」
「立ち上がれるよう育てる力です。」
「身体を整えるのも。」
「そのためです。」
「強い人を。」
「もっと強くするためではありません。」
「弱い人が。」
「自分の足で立てるようになるためです。」
宗麟は静かに笑った。
「なるほど。」
「だから。」
「お前は整えるのか。」
ハリーは頷く。
「はい。」
「人は。」
「自然の縮図です。」
「自然の流れを取り戻せば。」
「人もまた。」
「本来の力を取り戻せます。」
宗麟は空を見上げた。
同じ空が。
薩摩へも続いている。
「面白い男だ。」
「お前は。」
「戦を知らぬ男ではない。」
「戦を知った上で。」
「戦わぬ道を選んでいる。」
ハリーは静かに微笑んだ。
「私の願いは一つです。」
「誰も。」
「戦わなくても生きていける国です。」
遠く薩摩でも。
義久が同じ空を見上げていた。
「民を守る。」
その願いだけは。
宗麟も。
義久も。
変わらなかった。
違うのは。
その道だけだった。
同じ「守る」でも。
人は。
歩んできた道によって。
選ぶ方法が変わります。
だからこそ。
互いの信念は。
簡単には折れないのです。




