第61話 人は自然の縮図
自然は。
急がない。
だからこそ。
命を育む。
府内の城下町。
整命部隊を訪れる者は。
まだ少なかった。
「整えは詐欺だ。」
そんな噂だけが。
風のように町を流れていた。
それでも。
ハリーは何も言わない。
いつも通り。
庭を掃き。
道具を磨き。
朝日を浴びる。
ただ。
静かに一日を始めていた。
宗信は唇を噛む。
「悔しくないんですか。」
ハリーは微笑んだ。
「悔しいですよ。」
「でも。」
「焦っても。」
「自然は変わりません。」
その言葉だけだった。
――――――――
数日後。
一人の農民が畑で立ち止まった。
「今年は。」
「風が柔らかい。」
隣で畑を耕す老人が笑う。
「雨も違う。」
「土も生き返っとる。」
港では。
漁師が海を眺めていた。
「潮が戻ったな。」
山では。
木こりが大木へ手を当てる。
「今年の山は。」
「よく息をしとる。」
誰も教わってはいない。
しかし。
自然と共に生きる者たちは。
小さな変化を感じ取っていた。
その頃。
整命部隊で治療を受けた老婆が。
ゆっくり歩いていた。
ふと立ち止まる。
「あれ……。」
「そういえば。」
「朝が楽じゃ。」
膝をさする。
「痛みも。」
「いつの間にか軽うなっとる。」
老婆は空を見上げる。
「昨日治ったんじゃない。」
「少しずつ。」
「整っておったんじゃ。」
その呟きを。
農民が聞いた。
漁師も聞いた。
木こりも聞いた。
一人。
また一人と頷き始める。
「そう言えば。」
「俺も腰が軽い。」
「私は夜眠れるようになった。」
「息切れが減った。」
誰も。
昨日治ったわけではない。
気付けば。
変わっていた。
自然と同じように。
静かに。
少しずつ。
宗麟は。
その光景を見つめていた。
そして。
静かにハリーへ歩み寄る。
「ハリー。」
「ようやく分かった。」
ハリーは微笑む。
宗麟は続ける。
「お前は。」
「病だけを見ていたのではない。」
「人を。」
「自然の縮図だと信じていたのだな。」
ハリーは深く頷く。
「はい。」
「身体は自然です。」
「山があり。」
「川があり。」
「風が吹き。」
「太陽が昇る。」
「その流れが乱れれば。」
「自然も。」
「身体も苦しみます。」
宗麟は空を見上げた。
吹き抜ける風。
揺れる稲穂。
流れる雲。
その景色が。
今までとは違って見えた。
「なるほど……。」
「人は。」
「自然の縮図か。」
その言葉を聞いた民たちは。
静かに頷いた。
誰も理屈では語らない。
自然と共に生きてきたからこそ。
その言葉が。
胸に落ちた。
整命部隊の門には。
翌朝。
一人の老人が立っていた。
その後ろに。
また一人。
さらに。
もう一人。
噂ではなく。
自分の身体の変化を信じた人々が。
静かに戻ってきた。
自然は。
毎日少しずつ姿を変えています。
身体もまた。
自然と同じように。
静かに整っていくものなのかもしれません。




