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第57話 信じる勇気

勇気とは。

強くなることではない。

人を。

信じることなのかもしれない。

夜は更けていた。

宗信と兵糧係は。

静かな城下町を歩いていた。

二人とも無言だった。

兵糧係の足は。

何度も止まる。

「やっぱり……。」

「無理です……。」

宗信は振り返る。

責めない。

急がせない。

ただ静かに言った。

「俺も。」

「何度も逃げようとした。」

兵糧係は顔を上げる。

宗信は少し笑った。

「だから。」

「一緒に行こう。」

二人は再び歩き出す。

やがて。

一軒の家の前で立ち止まった。

障子から灯りが漏れている。

兵糧係の身体が震えた。

「怖いです……。」

宗信は兵糧係の肩へ手を置く。

「大丈夫だ。」

「ハリーさんは。」

「お前を責めない。」

兵糧係は大きく息を吸う。

そして。

震える手で戸を叩いた。

「……どうぞ。」

穏やかな声が聞こえる。

戸が開く。

ハリーだった。

宗信を見る。

兵糧係を見る。

その顔を見た瞬間。

何かを悟ったようだった。

しかし。

何も聞かない。

「寒かったでしょう。」

「どうぞ。」

その一言だけだった。

兵糧係の目から。

涙があふれた。

部屋へ入る。

宗麟。

鑑連。

アルメイダ。

レオンもいた。

全員が兵糧係を見る。

誰一人。

責める者はいない。

静かな時間が流れる。

兵糧係は震えながら頭を下げた。

「申し訳……ありません……。」

言葉にならない。

何度も何度も頭を下げる。

「私は……。」

「私は……。」

「裏切ろうとしていました……。」

部屋は静まり返る。

兵糧係は涙を流しながら。

すべてを話した。

妻と娘を人質に取られたこと。

黄金の天秤から渡された黄金。

偽の書状。

整命部隊の兵糧へ毒を混ぜる命令。

そして。

宗麟やハリーを討つことまで考えてしまったこと。

話し終えた兵糧係は。

畳へ額をつけた。

「どうか。」

「処罰してください。」

沈黙。

誰も動かない。

やがて。

ハリーが静かに口を開いた。

「顔を上げてください。」

兵糧係は動けない。

ハリーは続ける。

「あなたは。」

「裏切っていません。」

兵糧係の肩が震える。

「あなたは。」

「ここへ来ました。」

「助けを求めました。」

「それは。」

「裏切りではありません。」

「勇気です。」

兵糧係は声を上げて泣いた。

宗麟が静かに立ち上がる。

兵糧係の前まで歩く。

「よく来てくれた。」

その一言だった。

兵糧係は泣きながら叫ぶ。

「申し訳ありません!」

宗麟は首を横に振る。

「謝る相手は私ではない。」

「家族を守ろうとした。」

「父として当然だ。」

兵糧係は。

嗚咽を漏らした。

その姿を見ながら。

ハリーは机の上へ袋を置く。

黄金。

偽の書状。

毒。

静かに見つめる。

そして微笑んだ。

「整いました。」

全員がハリーを見る。

「敵は。」

「命を狙っているのではありません。」

「信頼を狙っています。」

「疑いを生み。」

「内側から崩す。」

「それが黄金の天秤の戦い方です。」

部屋の空気が変わる。

ハリーは宗麟を見る。

宗麟は静かに頷いた。

「鑑連。」

「頼む。」

鑑連は一歩前へ出る。

「心得た。」

その目は。

すでに戦場を見ていた。

ハリーは兵糧係へ微笑む。

「安心してください。」

「奥様も。」

「娘さんも。」

「必ず助けます。」

兵糧係は。

言葉にならなかった。

ただ。

何度も何度も頭を下げる。

その夜。

府内城では。

静かに反撃の準備が始まった。

人は。

一人で苦しむと。

絶望します。

しかし。

誰かを信じた瞬間。

希望は動き始めます。

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