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第51話 動かざる王

本当の王とは。

誰よりも前へ出る者ではない。

最後まで。

動かぬ者である。

薩摩。

島津館。

広間には重臣たちが集まっていた。

島津義弘。

島津歳久。

島津家久。

そして、数多の家臣たち。

しかし。

誰一人として口を開かない。

広間の最奥。

静かに座る一人の男。

島津義久。

当主が考えている間。

誰も言葉を挟まなかった。

やがて。

一人の家臣が膝を進める。

「ご報告申し上げます。」

「大友に潜入していたレオンが帰還いたしました。」

義久は黙って頷く。

「整命部隊は健在。」

「兵たちの士気は以前より高まり。」

「城下の民も宗麟への信頼を深めております。」

別の家臣が言う。

「今こそ攻めるべきです。」

「勢いづく前に叩けば──」

「……騒ぐな。」

義久が口を開いた。

その一言だけで。

広間は静まり返る。

義久は静かに目を閉じる。

「敵を見誤るな。」

「宗麟でしょうか。」

若い武将が尋ねる。

義久はゆっくり首を横へ振った。

「違う。」

「宗麟だけではない。」

「大友そのものが変わり始めている。」

広間に緊張が走る。

そこへ。

黄金の天秤から密書が届けられた。

レオンの報告。

ハリー。

整命部隊。

府内城の変化。

すべてが記されていた。

家臣の一人が言う。

「では。」

「ハリーを討ちますか。」

義久は書状を閉じる。

「一人斬れば。」

静かな声だった。

「終わると思うか。」

誰も答えられない。

義久は続ける。

「人を変える者は。」

「一人では終わらぬ。」

「変えられた者が。」

「また人を変える。」

その言葉に。

黄金の天秤の使者でさえ息をのんだ。

義久はゆっくり立ち上がる。

「ならば。」

「我らも整える。」

家臣たちが顔を上げる。

「兵を。」

「家臣を。」

「民を。」

「島津を一つにする。」

義弘が静かに笑う。

「兄上らしい。」

歳久も頷く。

家久は何も言わず、ただ深く頭を下げた。

義久は広間を見渡す。

「力は。」

「散れば弱い。」

「一つになれば。」

「国となる。」

その一言で。

島津の空気が変わった。

命令ではない。

覚悟だった。

法螺貝が鳴る。

太鼓が響く。

伝令が薩摩中を駆け抜ける。

島津は。

静かに動き始めた。

一方その頃。

府内では。

宗麟が民の声に耳を傾けていた。

笑顔が広がる城下町。

その穏やかな光景の向こうで。

もう一つの大国が。

静かに牙を研いでいた。

人を育てる者。

人を束ねる者。

二人の王が。

いよいよ同じ時代で。

動き始めた。

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