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第50話 百戦錬磨


強い者とは。


一人で戦う者ではない。


人を育て。


人を信じ。


その力を引き出せる者こそ。


本当に強い。


薩摩。


夜明け前。


一人の男が静かに城門をくぐった。


レオンである。


門番は顔を上げた。


「……戻ったか。」


それだけだった。


歓迎もない。


安堵もない。


ただ。


任務から帰った駒を見るような視線。


レオンは黙って歩き続けた。


---


広間。


黄金の天秤の幹部たちが並ぶ。


中央には。


黄金の天秤の長。


その隣にはエドワード。


誰一人。


口を開かない。


静寂だけが流れる。


その沈黙が。


どんな尋問より重かった。


やがて。


長が口を開く。


「毒は効いたか。」


レオンは表情を変えない。


「効きました。」


「死ぬかと思いました。」


「そうか。」


それだけだった。


再び沈黙。


誰も質問しない。


誰も責めない。


誰も労わらない。


レオンは胸の奥で悟る。


(見られている。)


(言葉ではない。)


(心を見られている。)


百戦錬磨。


それが黄金の天秤だった。


---


やがて。


長が静かに頷く。


「休め。」


「次の命までな。」


レオンは一礼し。


部屋を後にした。


扉が閉まる。


その瞬間。


エドワードが口を開く。


「始末しますか。」


長は首を横に振る。


「まだだ。」


「泳がせろ。」


「ハリーにレオンを攻略されたくらいで。」


「黄金の天秤は崩れん。」


幹部たちは誰一人反論しない。


「もし裏切れば。」


「その時に切ればよい。」


冷たい空気が部屋を包んだ。


---


一方。


府内城。


朝日が城を照らしていた。


宗麟は天守から城下町を見つめていた。


以前とは違う景色。


笑顔の兵。


元気な民。


市場に響く笑い声。


整命部隊だけではない。


城全体が。


少しずつ変わっていた。


背後からハリーが歩み寄る。


「殿。」


宗麟は静かに言う。


「先生。」


「私は。」


「何もしておらぬ。」


「お前ばかりが命を削っている。」


ハリーは小さく首を振った。


「違います。」


宗麟が振り返る。


「私は。」


「人を整えているだけです。」


「国を整えるのは。」


「殿です。」


宗麟は黙る。


ハリーは続けた。


「私は。」


「人を百以上にはできません。」


「でも。」


「その人が本来持つ百の力を。」


「引き出すことはできます。」


静かな風が吹いた。


宗麟は城下町を見つめる。


兵。


民。


家臣。


皆の顔が浮かぶ。


そして。


ゆっくりと頷いた。


「そうか。」


「私の役目は。」


「皆を戦わせることではない。」


「皆の力を。」


「引き出すことなのだな。」


ハリーは微笑んだ。


「はい。」


その言葉だけだった。


---


その日の昼。


宗麟は家臣たちを集めた。


鑑連。


アルメイダ。


整命部隊。


重臣たち。


宗麟は静かに立ち上がる。


「これより。」


「整命部隊だけではない。」


「大友家すべてを。」


「整える。」


「兵も。」


「民も。」


「家臣も。」


「誰一人。」


「見捨てぬ。」


その言葉に。


広間の空気が変わる。


鑑連が静かに頭を下げる。


アルメイダも微笑む。


ハリーは何も言わない。


ただ。


宗麟の背中を見つめていた。


その背中はもう。


守られるだけの殿ではなかった。


人を信じ。


人を育てる。


一人の王として。


静かに歩き始めていた。



本当の強さは。


人を倒す力ではない。


人の力を。


信じて引き出す力である。

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