第43話 向けられた矢
矢は。
弓から放たれる前に。
心の中で生まれる。
府内城。
朝。
兵たちの鍛錬は続いていた。
掛け声は。
以前と変わらない。
だが。
笑顔だけが減っていた。
休憩になる。
一人の兵が水を飲みながら呟く。
「先生は。」
「整命部隊ばかり見ている。」
誰も返事をしない。
その沈黙が。
言葉を肯定していた。
「俺たちだって。」
「命を懸けている。」
「なのに。」
「褒められるのは。」
「いつも整命部隊だ。」
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城下町。
整命部隊は今日も働いていた。
畑を耕し。
井戸を掃除し。
病人を診る。
独り暮らしの老人へ薬草を届ける。
「ありがとう。」
「助かったよ。」
町の人々の笑顔は変わらない。
だが。
その様子を見つめる兵の目は。
以前とは違っていた。
「ああやって。」
「皆の心を掴んでいる。」
その言葉に。
隣の兵は何も答えなかった。
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夕方。
宗麟は城内を歩いていた。
すれ違う兵たち。
以前より。
声が少ない。
活気がない。
「宗信。」
「どう思う。」
宗信は静かに答えた。
「先生ではありません。」
「先生を見る。」
「人の心です。」
宗麟は足を止めた。
「見る心。」
「同じ景色でも。」
「疑えば。」
「違って見えます。」
宗麟は深く頷いた。
「病が。」
「目にまで回ったか。」
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その夜。
ハリーは一人。
月を見上げていた。
アルメイダが近づく。
「先生。」
「町の空気が変です。」
「知っている。」
「怖くありませんか。」
ハリーは小さく笑う。
「怖い。」
アルメイダは驚く。
「ですが。」
「人を責める気にはなれない。」
「皆。」
「守りたいものがある。」
「家族。」
「仲間。」
「明日の暮らし。」
「だから。」
「不安になる。」
アルメイダは黙って聞いていた。
「不安な人を責めれば。」
「もっと病む。」
「整える者は。」
「不安まで受け止めなければならない。」
アルメイダは先生の背中を見つめる。
その背中は。
以前より。
少しだけ小さく見えた。
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同じ頃。
府内の外れ。
黄金の天秤の男が笑う。
「良い。」
「誰も憎んではいない。」
「だからこそ。」
「壊れやすい。」
男は天秤へ。
一本の矢を置く。
矢は。
誰も傷つけない。
それでも。
天秤は大きく傾いた。
「次は。」
「仲間同士を比べさせよう。」
夜風が吹く。
府内では。
まだ誰も。
敵の姿を見ていなかった。
後書き
疑いは。
相手を信じられなくなる病ではない。
自分の心を。
信じられなくなる病なのかもしれない。




