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第42話 飢えの影


人は。


今日よりも。


明日を失うことを恐れる。


その恐れは。


心を曇らせる。



府内城。


朝。


兵糧蔵では。


俵が次々と運び込まれていた。


兵糧奉行が帳面を見つめる。


「数が合わない……。」


何度数えても。


帳尻が合わない。


盗まれた形跡はない。


だが。


少しずつ。


足りない。


「おかしい……。」


誰にも聞こえない声だった。


---


昼。


城下町。


商人たちが話していた。


「最近。」


「米が手に入りにくいらしい。」


「他の国でも買い集めているとか。」


「戦が近いのか。」


噂は。


あっという間に広がった。


誰も。


確かめない。


誰も。


嘘とも言わない。


---


兵舎。


昼食。


椀を見つめた兵が言う。


「少し減ったか?」


「気のせいじゃないか。」


「いや。」


「昨日より少ない。」


その一言で。


皆が自分の椀を見つめた。


本当に減ったのか。


誰にも分からない。


だが。


そう思い始めると。


少なく見えてしまう。


---


整命部隊。


昼食の時間。


「いただきます!」


今日も。


皆が笑顔だった。


食事は。


他の兵と変わらない。


だが。


外から見れば。


笑顔だけが目に入る。


「やっぱり。」


「あいつらだけ余裕がある。」


誰かが呟く。


その言葉は。


また一人。


また一人と。


心へ染み込んでいく。


---


夕方。


宗信は兵糧蔵を訪れていた。


帳面。


俵。


運搬記録。


何度見ても。


大きな不正はない。


「少しずつ……。」


「少しずつ減っている。」


そこへ。


ハリーが現れた。


「どうだ。」


「原因が見えません。」


宗信は首を振る。


「だから怖い。」


ハリーは兵糧蔵を見回す。


「身体も同じだ。」


「一度に血を失えば気づく。」


「だが。」


「少しずつ失えば。」


「気づいた時には倒れている。」


宗信は静かに頷いた。


「敵は。」


「それを知っています。」


---


夜。


府内の外れ。


黄金の天秤を持つ男が。


小さな米粒を一つ。


皿へ落とす。


たった一粒。


それだけで。


天秤は。


ゆっくりと傾いた。


男は笑う。


「奪う必要はない。」


「足りないと。」


「思わせればいい。」


夜風が吹く。


府内では。


誰一人として。


飢えてはいなかった。


それでも。


飢えへの恐れは。


確実に人々の心へ入り込んでいた。




後書き


飢えは。


食べ物がなくなった時ではない。


心が。


「足りない」と思った時から始まる。

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