第41話 見えない秤
人は。
平等を求める。
だが。
平等と公平は。
同じではない。
府内城。
朝。
兵たちの鍛錬が始まる。
木刀がぶつかる音。
掛け声。
汗。
いつもと変わらぬ光景。
だが。
休憩になると。
一人の若い兵が呟いた。
「整命部隊はいいよな。」
隣の兵が苦笑する。
「また始まった。」
「だってそうだろ。」
「町へ行けば感謝される。」
「飯も少し良くなったらしい。」
「先生にも可愛がられてる。」
「俺たちは毎日鍛錬だけだ。」
その言葉に。
誰も反論しなかった。
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その頃。
整命部隊では。
朝から町へ向かう準備をしていた。
「今日は西の集落だ。」
「足の悪い老人が待っている。」
「薬草も届けます。」
「帰りは橋の補修も手伝います!」
皆。
笑顔だった。
楽だからではない。
誰かの役に立てることが。
嬉しかった。
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昼。
城下町。
整命部隊の兵たちは。
畑仕事を手伝い。
井戸を掃除し。
独り暮らしのお婆さんの様子を見て回る。
「ありがとう。」
「助かるよ。」
町の人々は笑う。
その光景を。
少し離れた場所から。
城の兵たちが見ていた。
「……人気者だな。」
その一言が。
胸に小さな影を落とす。
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夕方。
兵舎。
「俺たちは命懸けで戦う。」
「なのに。」
「感謝されるのは整命部隊。」
「なんだかな。」
誰かがため息をつく。
その時だった。
宗信が入ってきた。
「何を話している。」
兵たちは慌てて姿勢を正す。
「いえ……。」
宗信は皆の顔を見回した。
誰も怒っていない。
誰も憎んでいない。
ただ。
比べ始めていた。
それだけだった。
宗信は静かに部屋を出る。
廊下を歩きながら。
小さく呟く。
「もう始まっている……。」
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夜。
宗麟の部屋。
宗信は昼間の出来事を報告した。
宗麟は腕を組む。
「整命部隊は何も悪くない。」
「はい。」
「兵たちも悪くありません。」
「では。」
「何が悪い。」
宗信は答えられなかった。
その時。
障子が静かに開く。
ハリーだった。
「秤です。」
宗麟が振り向く。
「秤?」
ハリーは静かに頷く。
「人は。」
「無意識に。」
「自分と他人を量ります。」
「誰が得をした。」
「誰が損をした。」
「誰が認められた。」
「誰が認められなかった。」
「その秤が傾いた時。」
「心は病み始めます。」
宗麟は深く息を吐いた。
「だから。」
「敵は兵を斬らぬのか。」
「はい。」
「心の秤を狂わせれば。」
「人は勝手に争い始めます。」
部屋に。
重い沈黙が流れた。
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その頃。
府内の外れ。
黒衣の男が。
黄金の天秤を見つめていた。
皿の上には。
何もない。
だが。
片方だけが。
ゆっくりと沈んでいく。
男は笑う。
「人は。」
「重さでは動かぬ。」
「比べる心で動く。」
静かな夜風が吹く。
府内では。
誰一人として剣を抜いていない。
それでも。
見えない戦は。
確実に始まっていた。
後書き
人を傷つけるのは。
力ではない。
比べる心なのかもしれない。




