第38話 見えない戦場
戦場は。
城の外だけではない。
人の心にもある。
薩摩。
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黄金の天秤商会。
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地下に造られた石造りの会議室。
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長い机を囲む黒衣の男たち。
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机の中央には。
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一つの黄金の天秤。
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エドワードが静かに口を開く。
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「大友は強くなっている。」
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「ですが。」
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「兵が強くなったのではありません。」
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一人の男が尋ねる。
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「では何が。」
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エドワードは笑う。
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「人の心です。」
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部屋が静まり返る。
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「ハリーという男は。」
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「兵を整えているのではない。」
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「家族を整え。」
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「村を整え。」
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「人の心を整えている。」
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「だから強い。」
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一人の商人が立ち上がる。
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「では。」
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「どうすればよい。」
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エドワードは黄金の天秤へ手を添えた。
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「簡単です。」
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「繋がりを切ればいい。」
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「噂を流せ。」
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「嫉妬を生め。」
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「疑わせろ。」
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「恐怖を与えろ。」
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「人は勝手に分断する。」
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静かな笑いが広がる。
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一方。
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府内城。
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整命部隊では今日も笑顔が絶えなかった。
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清太が兵たちに呼吸を教えている。
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「先生はこう言ってた!」
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「肩に力を入れるな!」
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「腹まで息を送れ!」
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兵たちが笑う。
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昨日まで教わる側だった清太が。
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今日は教える側になっていた。
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その姿を見て。
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ハリーは静かに微笑む。
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「それでいい。」
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「知識は独り占めするものじゃない。」
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「受け継ぐものだ。」
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宗麟が近づいてくる。
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「ハリー。」
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「お主は何故そこまで教える。」
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ハリーは答えた。
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「私がいなくなっても。」
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「皆さんが整えられるようにです。」
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宗麟は少し眉をひそめる。
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「また。」
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「そのようなことを言う。」
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ハリーは笑って誤魔化した。
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「未来では。」
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「一人の名医より。」
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「百人の健康な人を育てる方が価値があります。」
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宗麟はその言葉を静かに胸へ刻んだ。
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その頃。
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薩摩。
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レオンは報告書を閉じた。
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「黄金の天秤……。」
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「何故。」
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「そこまで戦を長引かせたい。」
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初めてだった。
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レオンの中で。
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忠誠よりも。
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疑問が大きくなった。
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その夜。
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ハリーは城壁から満天の星を眺めていた。
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「未来では。」
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「こんな星空も。」
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「なかなか見られないんですよ。」
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隣には宗麟。
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「不便な時代だな。」
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「便利なんです。」
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「でも。」
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「失ったものもあります。」
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宗麟は黙って夜空を見上げた。
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そして静かに言った。
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「だから。」
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「お主はこの時代へ来たのか。」
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ハリーは微笑むだけだった。
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答えは。
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まだ誰にも話せない。
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今回のテーマは、
「見えない戦場」
でした。
人を壊すのは、
剣だけではありません。
噂。
疑い。
恐怖。
そして孤独。
反対に。
人を強くするのも、
信頼。
笑顔。
学び。
そして繋がりです。
次回、第39話
「裏切り者」
黄金の天秤商会が、
ついに大友家の内部へ手を伸ばします。
そしてハリーの観察眼が、誰も気付かなかった"違和感"を見抜くことになります。




