第36話 黄金の天秤
戦争で最も利益を得る者は。
勝者ではない。
戦争が終わらないことを望む者である。
薩摩。
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深夜。
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レオンの部屋。
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静寂を破るように。
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一人の南蛮人が現れた。
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銀色の髪。
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青い瞳。
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美しい服。
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そして胸元には。
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黄金の天秤の紋章。
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「お久しぶりです」
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「レオン殿」
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男は優雅に頭を下げた。
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「エドワード殿」
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レオンも立ち上がる。
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男は微笑んだ。
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穏やか。
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上品。
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だが。
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どこか冷たい。
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感情を感じさせない。
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「島津は順調ですか?」
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「はい」
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「問題ありません」
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エドワードは満足そうに頷いた。
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「結構」
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「争いは長い方が良い」
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レオンの眉が僅かに動く。
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「長い方が?」
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「もちろんです」
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男はワインを口に運ぶ。
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「武器が売れる」
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「薬が売れる」
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「食料が売れる」
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「金が動く」
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「平和は利益になりません」
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静寂。
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レオンは小さな違和感を覚えた。
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だが。
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言葉にはしなかった。
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「ところで」
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エドワードが笑った。
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「面白い男がいるそうですね」
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「未来から来た整体師」
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「ハリー」
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レオンの目が変わる。
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「……厄介な男です」
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「でしょうね」
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「人を繋ぐ者」
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「家族を繋ぐ者」
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「国を繋ぐ者」
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「そういう者は」
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「戦を終わらせてしまう」
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エドワードの黄金の瞳が細くなる。
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「困ります」
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「非常に」
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一方。
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府内城。
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朝日が昇る。
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整命部隊の一日が始まる。
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兵たちの笑顔。
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子供たちの笑顔。
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家族の笑顔。
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ハリーは朝日を浴びながら。
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大きな声で言った。
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「皆さん!」
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「笑ってますか!」
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兵たちが笑う。
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「朝から元気ですな!」
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鑑連まで笑った。
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ハリーも笑う。
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「笑うと心臓に良いんですよ!」
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「だから毎日笑ってください!」
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「身体が喜びます!」
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清太が手を挙げる。
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「先生!」
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「笑うだけでですか?」
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「はい!」
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「それと!」
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「大きな声を出してください!」
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「歌でも!」
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「掛け声でも!」
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「笑い声でも!」
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「肺が喜びます!」
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宗麟が笑った。
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「変わった男だ」
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「そうかもしれません」
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ハリーは少し空を見上げた。
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「でも」
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「私がいなくなっても」
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「笑うことだけは忘れないでください」
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一瞬。
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アルメイダの顔が曇った。
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「ハリー……」
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だが。
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誰も深く考えなかった。
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その時は。
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まだ。
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誰も知らなかった。
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宗麟が。
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鑑連が。
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清太が。
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そして。
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レオンまでもが。
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この日の言葉を。
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一生忘れることがないと。
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その時だった。
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ドクン。
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胸が痛む。
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視界が揺れる。
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一瞬。
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世界が暗くなる。
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しかし。
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「まだ大丈夫」
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ハリーは小さく呟いた。
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空を見上げる。
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一羽の白い鳥。
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あの日と同じ鳥だった。
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「また会いましたね」
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鳥は。
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まるで頷くように。
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青空へ羽ばたいていった。
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遠く薩摩。
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エドワードは朝日を見つめていた。
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「整える者か」
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「面白い」
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そして。
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静かに笑った。
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「ならば」
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「分断しましょう」
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黄金の瞳が。
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朝日を受けて妖しく輝いた。
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今回のテーマは、
「繋ぐ者と分断する者」
でした。
笑顔。
家族。
安心。
信頼。
それらを繋ぐ者。
そして。
恐怖。
争い。
不安。
利益。
それらを利用する者。
物語は。
新たな敵との戦いへ進み始めます。
次回。
第37話
「分断する者たち」
レオンは初めて。
自分が仕えてきた世界に疑問を抱き始めます。
そして。
ハリーを巡る運命も、
大きく動き始めるのでした――。




