第35話 初めての祈り
人には。
生まれてきた意味がある。
私はそう信じている。
島津陣営。
レオンは眠れなかった。
月が高い。
机には報告書。
数字。
兵力。
兵糧。
勝率。
いつもの自分なら。
答えが出る。
だが。
出ない。
「何故だ……」
頭に浮かぶのは。
あの男。
ハリーだった。
そして。
胸を押さえて苦しむ姿。
「何故」
「そこまで……」
その頃。
府内城。
ハリーは一人。
縁側で夜空を見ていた。
宗麟が酒を持ってくる。
「隣、よいか」
「どうぞ」
しばらく二人で月を見る。
やがて。
宗麟が呟く。
「お主」
「怖くないのか」
「何がです?」
「死ぬことだ」
ハリーは少し笑った。
「怖いですよ」
「痛いの嫌ですし」
宗麟も笑う。
「違いない」
風が吹く。
星が美しい。
そして。
ハリーは空を見る。
「でも」
「必要とされている限り」
「命は途絶えないと思っています」
宗麟が見る。
「ほう」
「天が」
「まだお前が必要だと思っているなら」
「死なない」
「邪悪な敵に出会っても」
「矢が飛んできても」
「たとえ当たっても」
「命までは奪われない」
宗麟は静かに聞いていた。
「そう信じております」
そして。
少し寂しそうに笑った。
「未来では」
「その答えを見つけられませんでした」
「だから」
「この時代で確かめたいんです」
「何をだ」
ハリーは自分の胸に手を当てた。
「役割です」
「人には」
「一人一人役割がある」
「身体には三十兆個の細胞があります」
「ならば」
「三十兆個の個性があるはずなんです」
「三十兆個の役割がある」
宗麟は目を閉じる。
戦国武将。
農民。
商人。
子供。
老人。
皆。
役割がある。
「だから」
「自分の役割を思い出せば」
「自然が味方する」
「人も」
「動物も」
「大地も」
「風も」
「味方してくれる」
「私はそう信じています」
宗麟は笑った。
「変な男だ」
「はい」
「よく言われます」
二人は笑った。
その時。
庭の木に。
一羽の白い鳥が止まった。
月明かりを受けて。
静かに鳴く。
宗麟が驚く。
「珍しい鳥だな」
ハリーも見る。
「綺麗ですね」
鳥は。
まるで。
二人の話を聞いていたかのように。
静かに羽ばたき。
夜空へ消えていった。
その光景を。
二人はただ見送った。
まだ。
知らない。
何十年後。
いや。
四百年以上の時を超えて。
ハリーが。
その答えを見ることになるとは。
今回のテーマは、
「役割」
でした。
三十兆個の細胞。
三十兆個の個性。
三十兆個の役割。
人も同じ。
きっと。
誰にでも役割があります。
そして。
必要とされている限り。
命は簡単には終わらない。
そう信じたいものです。
次回。
第36話 黄金の天秤
ついに。
レオンの背後で動く、
謎の南蛮商会の影が姿を現し始めます。
そして。
レオン自身も知らない、
さらに大きな「分断する者たち」の存在が――




