第34話 数字では測れないもの
数字で測れるものは多い。
だが。
数字では測れないものもある。
島津陣営。
レオンは苛立っていた。
机の上には。
大量の報告書。
兵数。
兵糧。
負傷者。
病人。
離脱者。
何度見ても。
答えは一つだった。
「ありえない」
部下たちが顔を見合わせる。
「何がでしょう」
「大友だ」
レオンが報告書を叩く。
「兵糧は減っている」
「鉄砲も少ない」
「援軍もない」
「なのに」
「病人が減っている」
「離脱者も減っている」
「士気は上がる」
「農民までも協力している」
静寂。
「何故だ」
誰も答えられない。
すると。
一人の古参兵が小さく言った。
「家族でしょうな」
「何?」
「皆」
「家族のために戦っております」
「それに」
「大友の兵は最近よく笑うそうです」
レオンは眉をひそめた。
「笑う?」
「戦場で?」
「はい」
「妙な軍です」
レオンには理解できなかった。
笑顔。
家族。
安心。
そんな曖昧なもの。
数字にならない。
その日の夕方。
レオンは馬に乗り。
前線の様子を見ていた。
すると。
一人の負傷兵を見つける。
若い兵だった。
片腕を失っている。
絶望して当然だった。
だが。
男は笑っていた。
「何がおかしい」
レオンが尋ねる。
兵は頭を下げた。
「先生のおかげです」
「先生?」
「ハリー先生です」
「腕は戻りません」
「でも」
「生きて帰れます」
「娘を抱けます」
「それで十分です」
レオンは言葉を失った。
男の顔に。
絶望はなかった。
感謝があった。
その時。
少し離れた場所。
ハリーが老婆を整えていた。
家族が泣いている。
ハリーは静かに微笑む。
「大丈夫」
「一人じゃありません」
優しく背中を整える。
呼吸を合わせる。
そして。
家族の涙が止まる。
皆。
笑顔になっていた。
だが。
家を出た瞬間。
「……っ!」
ハリーが壁に手をつく。
胸を押さえる。
呼吸が乱れる。
視界が揺れる。
しかし。
「歳かな」
笑った。
その姿を。
偶然。
レオンが見ていた。
目を見開く。
驚愕。
そして。
恐怖。
「……何故だ」
呟く。
「何故」
「そこまでして」
数字。
利益。
効率。
そんなものでは説明できない。
だが。
レオンには分かった。
あの男。
命を削っている。
それだけは。
数字を信じる男にも。
分かった。
そして。
生まれて初めて。
レオンは祈った。
「死ぬな」
自分でも信じられない言葉だった。
今回のテーマは、
「数字では測れないもの」
でした。
数字。
兵力。
兵糧。
勝率。
それらは大切です。
ですが。
人の想い。
感謝。
家族。
安心。
それらもまた。
大きな力なのかもしれません。
次回。
第35話「初めての祈り」
数字しか信じなかった男。
レオン。
その心に。
初めて小さな変化が生まれ始めます。
そして。
世界の裏で動く者たちも、
少しずつ姿を現し始めるのでした――




