第31話 和議の使者
勝つことと。
終わらせることは違う。
府内城。
軍議の空気は不思議だった。
以前のような重苦しさはない。
希望があった。
笑顔があった。
だが。
宗麟の表情は真剣だった。
「皆」
「今なら勝てると思うか」
重臣たちが顔を見合わせる。
鑑連が静かに答えた。
「以前よりは」
「だが島津は強い」
宗麟は頷いた。
「そうだ」
「だからこそ」
「終わらせたい」
広間が静まり返る。
「和議ですか?」
誰かが言った。
「左様」
宗麟は立ち上がった。
「これ以上」
「民を泣かせたくない」
鑑連も腕を組む。
「だが」
「島津が応じるか」
その時だった。
「応じなくても」
「出す価値はあります」
ハリーだった。
宗麟が頷く。
「そうだな」
「こちらが戦を望んでいないことを」
「示すことに意味がある」
その言葉に。
皆が頷いた。
だが。
ハリーの視界が揺れた。
ふらり。
一瞬。
世界が暗くなる。
「ハリー?」
宗麟が見る。
だが。
次の瞬間。
ハリーは笑っていた。
「大丈夫です」
「寝不足ですね」
宗麟も笑った。
「働き過ぎだ」
誰も気付かなかった。
袖の中。
左手がわずかに震えていたことを。
その夜。
ハリーは一人。
城の庭に座っていた。
月が綺麗だった。
風も優しい。
だが。
胸が痛む。
ドクン。
ドクン。
脈が乱れる。
「疲れてるな」
小さく呟く。
その時。
「嘘ですね」
後ろから声がした。
振り返る。
アルメイダだった。
「脈を見せなさい」
「大丈夫ですよ」
「嘘をつくな」
珍しく強い口調だった。
アルメイダの顔色が変わる。
脈。
呼吸。
顔色。
何かがおかしい。
だが。
原因が分からない。
「……何だこれは」
初めてだった。
医術で説明できない。
ハリーは笑った。
「歳ですよ」
アルメイダは笑わない。
胸騒ぎ。
嫌な予感。
だが。
今は言わなかった。
一方。
島津陣営。
レオンも報告書を見つめていた。
「宗麟から?」
部下が頷く。
「和議の使者です」
レオンは黙る。
長い沈黙。
そして。
静かに笑った。
「面白い」
「勝てるかもしれぬ時に」
「戦を終わらせようとするか」
部下が尋ねる。
「断りますか」
レオンは窓の外を見る。
月。
そして。
遠い豊後の方角。
「いや」
「まずは」
「会ってみよう」
小さく呟く。
「ハリーという男に」
その目には。
敵意ではない。
興味が宿っていた。
今回のテーマは、
「終わらせる勇気」
でした。
勝つことより難しいことがあります。
それは、
争いを終わらせること。
そして。
誰も知らない場所で、
ハリーの身体には小さな異変が起き始めていました。
次回。
第32話「月下の会談」
宗麟とレオン。
そしてハリー。
三人の運命が交差します。
そして。
アルメイダだけが、
言葉にできない不安を抱き始めるのでした…。




