第30話 戦う理由
戦う理由を失った軍は弱い。
守る理由を持った軍は強い。
島津陣営。
レオンは報告書を見つめていた。
一枚。
二枚。
三枚。
何度見ても同じだった。
「おかしい」
小さく呟く。
部下たちは顔を見合わせる。
「何がでしょう」
レオンは机を指で叩いた。
「大友軍だ」
「兵糧は減っている」
「兵数も変わらない」
「援軍も来ていない」
「なのに」
「士気が上がっている」
静寂。
誰も答えられない。
さらに。
「病人が減っている」
「脱走も減った」
「農民の協力が増えている」
「何故だ」
誰も答えられない。
レオンの計算式に。
答えが存在しなかった。
その頃。
府内城。
整命部隊の朝は早い。
兵たちが集まる。
呼吸。
歩行。
身体を整える。
そして。
皆で朝食を食べる。
味噌。
豆。
梅。
ニンニク。
質素な食事。
だが。
笑顔があった。
鑑連が不思議そうに眺める。
「以前と違うな」
宗麟も頷いた。
以前は。
不満ばかりだった。
疲労。
不安。
恐怖。
だが今は違う。
笑い声が聞こえる。
未来への話が聞こえる。
家族の話が聞こえる。
その時だった。
一人の若い兵が言う。
「俺は生きて帰る」
「妹を嫁に出さないといけない」
周囲が笑う。
「俺は息子に剣を教える」
「俺は親父の畑を継ぐ」
次々と声が上がる。
ハリーは黙って聞いていた。
そして。
少しだけ笑う。
宗麟が聞いた。
「何がおかしい」
「いえ」
「良いなと思いまして」
宗麟が首を傾げる。
「何がだ」
ハリーは少し遠くを見る。
未来。
別府。
家族。
子供。
孫。
そして。
現代社会。
便利になった世界。
だが。
一族が集まる機会は減った。
祖父。
祖母。
叔父。
叔母。
従兄弟。
皆で支え合う姿も少なくなった。
だから。
この時代が少し羨ましかった。
「皆」
「家族を守るために生きています」
「良い時代ですね」
宗麟は笑った。
「戦国の世だぞ」
「良い時代なものか」
ハリーも笑った。
「そうかもしれません」
「でも」
「家族を守るために戦う人は強いです」
宗麟は黙った。
そして。
静かに頷く。
「確かにな」
その時だった。
使者が駆け込んでくる。
「ご報告!」
「島津軍が動きました!」
空気が変わる。
全員の表情が引き締まる。
だが。
誰も怯えていなかった。
宗麟が立ち上がる。
「戦か」
使者が頷く。
ハリーも立ち上がった。
優しさだけでは守れない。
話し合いだけでも守れない。
だから。
戦う。
守るために。
その決意が。
静かに胸に宿っていた。
一方その頃。
レオンは窓の外を見ていた。
そして。
初めて理解できない感情を覚える。
「なぜだ」
「何故あの軍は強くなる」
数字では説明できない。
兵糧でもない。
兵数でもない。
金でもない。
その答えを。
まだレオンは知らない。
今回のテーマは、
「戦う理由」
でした。
人は何のために戦うのか。
何を守るために生きるのか。
その答えが、
少しずつ豊後に広がり始めています。
そしてレオンは、
初めて自分の計算できない力の存在に気付き始めました。
次回、
第31話 和議の使者
宗麟は島津へ意外な提案を送ります。
そしてレオンの運命も少しずつ動き始めます




