第29話 敵へ渡した宝物
本当に価値のあるものは。
奪うものではなく。
残すものかもしれない。
府内城。
整命部隊が動き始めていた。
兵たちの顔色は明らかに変わっていた。
呼吸。
睡眠。
食事。
身体の流れ。
少しずつ。
確実に変わっていた。
その日の朝。
ハリーは城下町を歩いていた。
市場の片隅。
小さな露店の老人がいた。
籠の中には。
ニンニク。
干しニンニク。
そして数種類の豆。
ハリーは立ち止まった。
「これは良いですね」
老人が笑う。
「臭いだけじゃがな」
周囲も笑う。
だが。
ハリーは真剣だった。
「これを兵に配ってください」
老人が驚く。
「ニンニクをか?」
「はい」
「病に負けにくくなります」
「身体も温まる」
「疲れも違います」
老人は不思議そうな顔をした。
その頃。
宗麟も同じ話を聞いていた。
「そんなに良いものなのか」
ハリーは頷く。
「未来でも重宝されます」
「特に身体の守りを強くします」
宗麟は少し考える。
「面白い」
そして。
城下へ広めるよう命じた。
数日後。
整命部隊では。
味噌。
豆。
梅。
ニンニク。
干し魚。
を組み合わせた食事が始まっていた。
豪華ではない。
だが。
身体が違う。
疲れ方が違う。
兵たち自身が気付き始めていた。
その日の夕方。
ハリーは一人で海を見ていた。
そこへ。
旅商人が通りかかる。
島津領へ向かう男だった。
「どちらへ」
「薩摩です」
ハリーは荷物の中へ小さな包みを入れた。
商人が首を傾げる。
「これは?」
ハリーは微笑む。
「芋です」
「芋?」
「はい」
「大切に育ててください」
商人は笑った。
「たかが芋だろう」
ハリーも笑う。
「今は」
「そうかもしれません」
商人は意味が分からなかった。
だが。
なぜか捨てる気にはなれなかった。
包みを受け取る。
夕陽が海へ沈む。
その光景を見ながら。
ハリーは小さく呟いた。
「未来では」
「多くの命を救いますよ」
誰にも聞こえない声だった。
その時。
宗麟が後ろから現れる。
「また変なことを言っているな」
ハリーは笑った。
「そうですか?」
「敵へ芋を渡す男など初めて見た」
宗麟が呆れる。
だが。
少しだけ笑っていた。
「なぜ敵に渡す」
静かな質問だった。
ハリーは海を見る。
そして答えた。
「飢える子供に」
「敵も味方もありません」
風が吹いた。
宗麟は黙る。
長い沈黙。
やがて。
「お前らしいな」
そう言って笑った。
その頃。
遠く薩摩へ向かう街道。
旅商人は包みを見ていた。
ただの芋。
だが。
なぜか。
未来への種のようにも見えた。
今回のテーマは、
「残すもの」
でした。
戦は多くのものを奪います。
ですが。
人は未来へ残すこともできます。
ニンニク。
味噌。
豆。
梅。
そして芋。
小さな知恵が、 多くの命を救うことがあります。
次回、
第30話 整命兵糧
大友軍の食と身体が大きく変わり始めます。
そしてレオンは、 大友軍の異変に気付き始めます。
読んでいただきありがとうございました。




