第28話 兵糧を超える知恵
足りない時ほど。
人は知恵を使う。
府内城。
軍議が開かれていた。
空気は重い。
島津軍は増えている。
だが。
大友軍の兵糧は減っていた。
米。
味噌。
干し魚。
どれも足りない。
宗麟が静かに報告書を置く。
「厳しいな」
誰も反論できない。
それが現実だった。
その時。
ハリーが口を開いた。
「質問です」
全員が見る。
「兵糧が足りない時」
「皆さんは何を考えますか」
鑑連が即答する。
「集める」
鑑速も頷く。
「買う」
「奪う」
「備蓄を増やす」
武将たちも同意する。
当然だった。
だが。
ハリーは首を振った。
「私は違います」
広間が静まる。
「身体を使います」
「身体?」
宗麟が聞く。
ハリーは立ち上がった。
「人の身体には備蓄があります」
武将たちは意味が分からない。
だが。
ハリーは続ける。
「脂肪です」
さらに静かになる。
「人は食べ物だけで動いているわけではありません」
「身体に蓄えた力があります」
鑑連が腕を組む。
「つまり」
「腹の肉か」
ハリーが笑う。
「そうです」
広間に笑いが起こった。
だが。
ハリーは真剣だった。
「ただし」
「使い方があります」
翌日。
整命部隊の訓練場。
兵たちが集まっていた。
「今日は走りません」
「筋トレもしません」
兵たちは不思議そうな顔をする。
「まず呼吸です」
皆が腹へ手を当てる。
「胸だけで息をするな」
「腹も使え」
ゆっくり。
ゆっくり。
呼吸する。
風が流れる。
鳥が鳴く。
不思議な時間だった。
次。
「歩いてください」
兵たちが歩く。
ゆっくり。
丁寧に。
無駄な力を抜いて。
歩く。
すると。
一人の兵が言った。
「楽だ」
「疲れない」
別の兵も頷く。
「確かに」
「息が切れない」
ハリーは笑った。
「それです」
「無駄な力を使わない」
「身体の流れを整える」
「すると」
「備蓄を使いやすくなる」
宗麟が見ていた。
未来の知識。
だが。
理にかなっている。
兵たちの顔色が違う。
目が違う。
呼吸が違う。
その時。
清太が手を挙げた。
「先生」
「食べ物が増えるわけじゃないですよね」
皆が笑う。
良い質問だった。
ハリーも笑う。
「その通りです」
「でも」
「少ない兵糧を長く使える」
「身体が変わると戦も変わる」
清太は大きく頷いた。
その夜。
ハリーは一人で空を見ていた。
星が綺麗だった。
ふと。
未来を思い出す。
飽食の時代。
食べ物が溢れる時代。
だが。
身体の使い方を忘れた時代。
少しだけ複雑だった。
その時。
宗麟が隣へ来た。
「何を見ている」
「未来です」
宗麟が笑う。
「また分からぬことを言う」
ハリーも笑った。
そして。
小さく呟く。
「いつか」
「この国を救う芋が現れます」
宗麟が首を傾げる。
「芋?」
「はい」
「大切に育てれば」
「多くの命を救います」
宗麟は笑った。
「お前は時々変なことを言うな」
ハリーは答えなかった。
まだ言えない。
未来の話だから。
今回のテーマは、
「身体も備蓄庫」
でした。
兵糧は大切です。
ですが、
身体の使い方もまた大切です。
整命部隊は、
戦う前に整える部隊でもあります。
そして最後に登場した「芋」。
それは未来へ続く、 小さな伏線かもしれません。
読んでいただきありがとうございました。




