第24話 1%の人間
人は簡単に諦める。
無理だ。
才能がない。
もう終わりだと。
だが。
本当に終わる人間は少ない。
多くは、
まだ誰にも見つかっていないだけだ。
屋敷の廊下。
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月明かりが静かに差し込んでいた。
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宗信の妻。
娘。
息子。
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そして。
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清太。
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見張り兵。
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誰も動けなかった。
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レオンがそこにいたからだ。
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逃げ場はない。
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なのに。
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レオンは慌てていなかった。
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むしろ楽しそうだった。
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まるで。
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珍しい玩具を見つけた子供のように。
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「理解できませんね」
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レオンが静かに言う。
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「あなたは非効率だ」
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ハリーは黙っていた。
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「宗信」
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「清太」
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「この見張り兵」
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「なぜそんな人間に時間を使うのです?」
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レオンの視線が順番に向けられる。
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宗信は裏切り者。
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清太はただの荷運び。
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見張り兵は無名の兵士。
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レオンの世界では。
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価値の低い人間だった。
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ハリーは少しだけ空を見上げた。
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月が出ていた。
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未来の別府で見た月と。
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よく似ていた。
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「整体師にも二種類いるんです」
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レオンの眉がわずかに動く。
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「ほう」
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「99%の人を整える人」
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「そして」
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「1%の人を整える人」
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静寂。
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レオンは黙って聞いていた。
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「99%の人は整えやすい」
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「身体も反応する」
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「家族も応援する」
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「本人も治りたいと思っている」
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ハリーはゆっくり続ける。
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「でも1%は違う」
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「誰も信じていない」
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「本人も」
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「家族も」
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「周囲も」
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「もう無理だと思っている」
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宗信の妻が俯く。
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その言葉は。
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少し前の自分たちそのものだった。
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「だから大変なんです」
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「技術もいる」
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「時間もいる」
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「信頼もいる」
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レオンは小さく笑った。
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「だから非効率だ」
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「そうでしょうね」
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ハリーも笑った。
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「でも」
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一歩前へ出る。
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「そこに宝が眠っていることがある」
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風が吹く。
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誰も声を出さない。
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「私は身体を見る」
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「呼吸を見る」
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「姿勢を見る」
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「目を見る」
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「癖を見る」
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「歩き方を見る」
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レオンが興味深そうに聞く。
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「それで何が分かる」
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ハリーは清太を見る。
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「例えば彼」
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清太が驚く。
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「お、俺ですか?」
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「はい」
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「あなたは将になります」
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全員が固まった。
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レオンまで沈黙した。
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「馬鹿な」
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「ただの荷運びですよ」
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ハリーは首を振る。
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「違う」
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「人の話を最後まで聞く」
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「失敗を人のせいにしない」
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「周りをよく見ている」
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「身体に余白がある」
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「伸びる人間です」
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清太は言葉を失った。
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そんなこと。
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一度も言われたことがなかった。
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レオンは腕を組む。
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「根拠が曖昧だ」
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「数字がない」
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ハリーは静かに頷いた。
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「そうですね」
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「でも」
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「私は二十年以上」
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「そういう人を見続けてきました」
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その目に。
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少しだけ過去が宿る。
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別府。
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整体院。
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誰にも期待されない人。
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病院を回った人。
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諦めた人。
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家族に見放された人。
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そんな人たちの顔が浮かんでいた。
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「だから分かるんです」
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「まだ終わっていない人間が」
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静寂。
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レオンは笑わなかった。
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何かを考えている。
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いや。
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何かを思い出しているようだった。
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その表情を見て。
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ハリーは初めて気づく。
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この男もまた。
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昔は誰かに見放された人間だったのかもしれない。
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レオンは踵を返す。
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「面白い」
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小さく呟く。
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「実に面白い」
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そして。
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振り返らずに言った。
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「だが」
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「世界はそんなに甘くない」
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そのまま闇へ消えていった。
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残された者たちは。
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しばらく誰も動けなかった。
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清太だけが。
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震える声で言った。
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「先生」
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「俺……本当に将になれますか」
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ハリーは笑った。
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「なれます」
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「ただし」
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「努力したら」
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その言葉に。
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清太は初めて大きく笑った。
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読んでいただきありがとうございました。
今回のテーマは、
「1%の人間」
でした。
誰にも期待されない人。
見放された人。
埋もれている人。
そういう人の中にこそ、
大きな可能性が眠っていることがあります。
レオンは今ある能力を見る。
ハリーは未来の可能性を見る。
二人の戦いは、
刀や鉄砲ではなく、
人間を見る目の戦いなのかもしれません。




