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第23話 救出の夜

恐怖で縛る者がいる。

信頼で繋ぐ者がいる。

同じ人間でも、

選ぶ道は違う。

夜だった。

 島津領。

 町は静かだった。

 だが。

 海の方だけが賑わっている。

 昼間から噂が流れていた。

「明日の朝日が特別らしい」

「百年に一度の光らしい」

「見ると運が良くなるらしい」

 誰が言い始めたのか。

 誰も知らない。

 だが。

 町中へ広がっていた。

 見張り兵たちも。

 農民も。

 商人も。

 皆が海へ向かっている。

 その頃。

 ハリーは屋敷の裏へいた。

 隣には清太。

 額に汗を浮かべている。

「先生」

「本当に大丈夫ですか」

 ハリーが笑う。

「大丈夫です」

「人は面白いほど噂を信じます」

 清太が苦笑した。

「確かに」

 その時。

 門が小さく開いた。

 見張り兵だった。

 以前。

 ハリーが肩を整えた男だ。

「先生」

「約束通り」

「今だけです」

 ハリーは頭を下げた。

「ありがとうございます」

 兵は首を振る。

「礼ならいりません」

「頭痛が消えました」

「久しぶりに眠れました」

「それだけです」

 そう言って笑った。

 ハリーも笑う。

 人は数字では動かない。

 恩で動く。

 そういう人もいる。

 屋敷へ入る。

 静かだった。

 あまりにも静かだ。

 その時。

 小さな声が聞こえた。

「……先生?」

 少女だった。

 宗信の娘。

 ハリーを見て目を見開く。

「お父さんのお友達?」

 ハリーは頷く。

「迎えに来ました」

 少女の目から涙がこぼれた。

「お父さん……」

 その声を聞き。

 奥から母親も出てくる。

 信じられない顔だった。

「本当に……」

「助けに……」

 ハリーは微笑む。

「帰りましょう」

 その瞬間だった。

 パチパチパチ……

 拍手が響く。

 全員が凍りついた。

 廊下の奥。

 暗闇の中。

 一人の男が立っていた。

 レオンだった。

 笑っている。

 だが。

 目だけが冷たい。

「素晴らしい」

「本当に素晴らしい」

 ゆっくり歩いてくる。

「兵も使わない」

「剣も使わない」

「噂だけで人を動かした」

 ハリーは黙っていた。

 レオンが止まる。

 二人の距離は数歩。

「やはり危険だ」

 レオンが言う。

「あなたは」

「私の計算を狂わせる」

 静寂。

 月明かり。

 誰も動かない。

 そして。

 レオンが初めて問う。

「あなたは何者なんですか」

 ハリーは静かに笑った。

「整体師です」

 レオンの眉がわずかに動く。

 その答えが。

 最も理解できなかった。

ついにレオンが、

ハリーの危険性を認識しました。

武力ではない。

知識でもない。

人を見る力。

人を繋ぐ力。

人材を発掘する力。

それがレオンには理解できません。

次回、

第24話

「計算できない男」

ハリーとレオンの価値観がさらにぶつかります。

そしてレオンの過去も少しずつ明らかになります。

読んでいただきありがとうございました。

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