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第20話 人を見る力


強い兵を見つけるのは難しくない。


難しいのは、


まだ強くなっていない人間の可能性を見抜くことだ。




 島津領。


---


 旅商人へ姿を変えたハリーは、

 静かに町を歩いていた。


---


 誰も気にしない。


---


 どこにでもいる旅人。


---


 そのはずだった。


---


 だが。


---


 ハリーの目は違った。


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 人を見ている。


---


 いや。


---


 身体を見ていた。


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 歩き方。


---


 呼吸。


---


 肩。


---


 首。


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 目線。


---


 すべてを。


---


「面白いな」


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 小さく呟く。


---


 市場の片隅。


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 一人の若者が荷物を運んでいる。


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 身体は細い。


---


 筋肉も多くない。


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 だが。


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 ハリーは立ち止まった。


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「将になる顔だ」


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 近くの商人が笑う。


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「冗談だろ」


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「あいつは荷運びだぞ」


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 ハリーは首を振った。


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「身体に余裕があります」


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「人の話を聞く耳もある」


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「失敗を恐れていない」


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「伸びる人です」


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 商人は意味が分からなかった。


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 その時。


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 別の男が横切った。


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 立派な体格。


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 腕も太い。


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 だが。


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 ハリーは眉をひそめる。


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「疲れてる」


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「かなり」


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 男は威張っていた。


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 声も大きい。


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 だが。


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 呼吸が浅い。


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 肩が上がっている。


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 顎も固い。


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「追い込まれているな」


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 その夜。


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 宿へ戻る途中。


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 ハリーは一人の男とぶつかった。


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「失礼」


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 男が頭を下げる。


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 普通の旅人だった。


---


 だが。


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 ハリーは立ち止まる。


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 男も止まる。


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「兵士ですね」


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 男の顔が変わる。


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「何のことだ」


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「右肩が下がっている」


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「左足が少し重い」


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「刀を抜く癖があります」


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 沈黙。


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 男は笑った。


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「面白い旅人だ」


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 だが。


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 その笑顔は引きつっていた。


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 ハリーは続ける。


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「三日寝てないですね」


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「胃も悪い」


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「それと」


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 一歩近づく。


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「何かに怯えている」


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 男の呼吸が止まった。


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 一瞬だった。


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 ほんの一瞬。


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 だが。


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 ハリーは見逃さなかった。


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「やっぱり」


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 男が後ずさる。


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「何者だ……」


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 ハリーは笑う。


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「整体師ですよ」


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「人を見る仕事です」


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 男は慌てて去っていった。


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 その様子を見ながら。


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 ハリーは静かに考える。


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 この町はおかしい。


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 表情が暗い。


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 呼吸が浅い。


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 余裕がない。


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 皆。


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 何かを恐れている。


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 その恐怖の中心に。


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 レオンがいる。


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 そんな気がした。


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 その時だった。


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 遠くの屋敷から。


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 小さな泣き声が聞こえた。


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 子供だった。


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 ハリーの目が細くなる。


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 宗信の娘か。


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 あるいは。


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 別の誰かか。


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 だが。


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 間違いなく。


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 何かが始まろうとしていた。


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今回から、

ハリーの「整命観察術」が本格的に動き始めました。


呼吸。


歩き方。


表情。


姿勢。


身体には、

その人の状態が現れます。


強さだけではなく、


疲労。


恐怖。


可能性。


そして伸びしろまで。


ハリーはそれを見ています。


次回はいよいよ、

宗信の家族救出作戦が動き出します。

そしてハリーは、

レオンの支配する町の異変へ近づいていきます。


読んでいただきありがとうございました。

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