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第18話 裏切り者を救え


人は悪だから裏切るのではない。


恐怖が。


人を裏切らせることもある。


---


 深夜。


---


 府内城。


---


 月明かりだけが、

 廊下を照らしていた。


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 佐伯宗信は眠れなかった。


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 眠れるはずがない。


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 胸が苦しい。


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 息が浅い。


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 汗が止まらない。


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 家族の顔が浮かぶ。


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 妻。


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 幼い娘。


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 幼い息子。


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 レオンの手紙。


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『従わねば家族を殺す』


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 その文字が頭から離れない。


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「申し訳ありません……」


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 宗信は震えていた。


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 御屋形様を裏切った。


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 仲間を裏切った。


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 それでも。


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 家族を失う方が怖かった。


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 その時だった。


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「眠れませんか」


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 後ろから声がした。


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 宗信が飛び上がる。


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「ハリー殿……」


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 ハリーは静かに座った。


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 怒っていない。


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 責めてもいない。


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 それが逆に苦しかった。


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「なぜ……」


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 宗信が震える。


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「なぜ怒らないのです」


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 ハリーは月を見る。


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「怒る理由がないからです」


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「私は裏切りました!」


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「いいえ」


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 ハリーは首を振る。


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「あなたは追い詰められただけです」


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 宗信の目から涙が落ちた。


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 初めてだった。


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 誰かにそう言われたのは。


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「家族ですね」


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 宗信は何も言えない。


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 その沈黙だけで十分だった。


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 ハリーは静かに立ち上がる。


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「助けましょう」


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 宗信が顔を上げる。


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「……え?」


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「家族を」


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「取り戻します」


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 宗信は言葉を失った。


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「無理です……」


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「相手は島津です」


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「レオンです」


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 ハリーは少し笑う。


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「だから助けるんです」


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「悪い人を倒すより」


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「良い人を守る方が好きなので」


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 宗信は声を失った。


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 涙だけが流れる。


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 その時。


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 廊下の奥から足音がした。


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 鑑連だった。


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 腕を組んでいる。


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 険しい顔だった。


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「話は聞いた」


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 宗信が震える。


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 終わった。


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 そう思った。


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 だが。


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 鑑連は言った。


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「次に勝手なことをしたら斬る」


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 宗信の顔が青くなる。


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「だが」


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 鑑連は続けた。


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「家族は助ける」


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 宗信は崩れ落ちた。


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 泣いた。


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 声を上げて泣いた。


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 戦が始まってから。


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 一度も流せなかった涙だった。


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 一方その頃。


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 島津陣営。


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 レオンは静かに報告を受けていた。


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「宗信はまだ動いております」


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 レオンは微笑む。


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「そうか」


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「ならば利用し続けよう」


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 だが。


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 彼はまだ知らない。


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 その駒が。


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 既に盤上を離れ始めていることを。


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今回のテーマは、


「裏切り者とは何か」


でした。


戦国時代には多くの裏切りがあります。


ですが本当に悪人だったのか。


家族。


恐怖。


生きるため。


様々な事情があったはずです。


ハリーは敵を倒すより、

人を救う道を選びます。


それが強さなのか、

甘さなのか。


今後の物語で描いていきたいと思います。


読んでいただきありがとうございました。

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