第17話 罠にかかったのは誰だ
賢い者ほど、
自分は騙されないと思っている。
だからこそ。
最初に罠へ落ちる。
島津陣営。
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夜明け前。
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レオン・バルディアは
一枚の地図を見ていた。
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「間違いないな」
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部下が頷く。
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「大友軍は三日後」
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「南の街道へ兵を集結させます」
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レオンは静かに笑った。
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「やはり恐れている」
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その指が地図をなぞる。
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「ならば先に叩く」
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島津側の武将たちも頷いた。
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勝った。
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誰もがそう思った。
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一方その頃。
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府内城。
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宗麟は静かに茶を飲んでいた。
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最近。
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呼吸が深くなった。
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眠れる日も増えた。
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以前の宗麟なら。
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今頃。
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不安で眠れなかっただろう。
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「本当に大丈夫なのか」
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鑑連が聞く。
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ハリーは笑った。
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「大丈夫です」
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「今ごろ、
向こうは喜んでます」
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宗麟が少し笑う。
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「悪い顔になったな」
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「御屋形様ほどではありません」
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広間に笑いが起きる。
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その空気を見ながら。
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アルメイダは思った。
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変わった。
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宗麟も。
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家臣たちも。
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そして。
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軍そのものが。
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その日の夕刻。
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島津軍が動いた。
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南街道へ。
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全力で。
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だが。
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誰もいない。
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兵も。
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荷車も。
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補給隊も。
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何もない。
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静かな山道だけ。
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「どういうことだ」
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武将が叫ぶ。
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その時だった。
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別方向から伝令が飛び込む。
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「申し上げます!」
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「大友軍が西側へ展開!」
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全員が凍りついた。
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「何だと!?」
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完全に逆だった。
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レオンの顔から笑みが消える。
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沈黙。
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長い沈黙。
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「……なるほど」
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小さく呟く。
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「こちらを試したか」
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部下が震える。
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だが。
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レオンは怒らなかった。
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むしろ。
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笑った。
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「面白い」
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「やっと出てきたか」
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その瞳が細くなる。
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「ハリー」
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「未来人」
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「お前か」
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その頃。
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府内城。
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勝報が届いていた。
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「成功しました!」
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兵たちが歓声を上げる。
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だが。
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宗麟は静かだった。
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以前なら喜んでいた。
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だが今は違う。
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「一度勝っただけだ」
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全員が静まる。
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「レオンは終わっていない」
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宗麟の声は落ち着いていた。
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「次が来る」
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鑑速が頷く。
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「御屋形様の言う通りです」
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ハリーはその姿を見る。
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嬉しかった。
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戦術ではない。
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宗麟自身が変わってきている。
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焦りで動く男から。
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流れを見る男へ。
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その時だった。
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突然。
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未来が流れ込む。
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炎。
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血。
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倒れる兵。
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そして。
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見知らぬ巨大な軍勢。
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その中央に立つ男。
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レオンではない。
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もっと恐ろしい存在。
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「……っ!」
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ハリーが胸を押さえる。
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血の味がした。
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未来は告げている。
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レオンは前座に過ぎない。
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本当の敵は。
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まだ姿を見せていない。
今回、
レオンは初めてハリーに出し抜かれました。
ですが、
本当に恐ろしい相手は一度の失敗では折れません。
むしろ優秀な敵ほど、
失敗から学びます。
宗麟も成長していますが、
レオンもまた学習しています。
次回からは、
「整命部隊」
そして
「裏切り者・佐伯宗信」
の物語が大きく動き始めます。
読んでいただきありがとうございました。




