第16話 嘘を流せ
戦国の戦いは、
刀だけではない。
時には。
一つの嘘が、
千の兵を動かす。
その日の夜。
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宗麟。
鑑連。
鑑速。
アルメイダ。
ハリー。
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いつもの広間へ集まっていた。
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障子の外では、
虫の音が聞こえる。
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だが。
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広間の空気は静かに張り詰めていた。
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「情報は漏れている」
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鑑速が言った。
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「ほぼ間違いない」
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宗麟も頷く。
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ここ最近。
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兵の移動。
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補給の動き。
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作戦の準備。
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あまりにも読まれ過ぎていた。
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「問題は誰かだ」
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鑑連が腕を組む。
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重い沈黙。
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その時。
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ハリーが口を開いた。
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「探さなくていいです」
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全員が見る。
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「何?」
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鑑連が眉をひそめる。
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ハリーは静かに笑った。
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「向こうから名乗り出ます」
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宗麟が聞く。
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「どうやってだ」
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「嘘を流します」
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広間が静まり返った。
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「嘘だと?」
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「はい」
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ハリーは地図へ近づく。
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そして。
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ある場所を指差した。
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「ここへ兵を集める」
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「そう発表する」
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鑑速が地図を見る。
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「だが実際は違う」
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「その通りです」
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アルメイダが小さく笑う。
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「罠ですな」
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ハリーは頷く。
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「本物の情報を守るより」
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「偽物を食べさせる方が早い」
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宗麟の目が細くなる。
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未来でも。
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こういう戦いがあったのだろう。
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その時。
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鑑連が聞く。
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「もし誰も引っかからなかったら?」
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ハリーは即答した。
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「その時は安心できます」
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広間に笑いが広がる。
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久しぶりだった。
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だが。
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その笑顔の裏で。
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ある男が汗を流していた。
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城の片隅。
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若い側近。
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佐伯宗信。
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宗麟に仕える者だった。
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真面目。
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働き者。
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誰からも信頼されている。
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だが。
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今夜だけは違った。
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「どうする……」
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手が震えている。
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懐から小さな紙を取り出した。
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そこには。
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『従わねば家族を殺す』
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短く書かれていた。
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レオンからの脅しだった。
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宗信は裏切り者ではない。
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なりたくてなったわけでもない。
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ただ。
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家族を守りたかった。
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それだけだった。
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だが。
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震える手は。
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偽の作戦情報を書き写していく。
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「許してください……」
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小さく呟く。
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そして。
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夜の闇へ消えていった。
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一方その頃。
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遠く離れた島津陣営。
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レオン・バルディアは、
一枚の報告書を受け取っていた。
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「ほう」
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口元が上がる。
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「大友はそこへ兵を集めるのか」
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部下が頭を下げる。
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「間違いありません」
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レオンは静かに笑った。
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「やはり恐れているな」
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だが。
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その笑顔を。
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月だけが見ていた。
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その情報が。
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まんまとハリーの罠であることを。
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今回は情報戦の始まりです。
歴史を調べると、
戦国時代にも偽情報や流言、
心理戦は数多く存在していました。
今回登場した佐伯宗信は、
悪人ではありません。
家族を守るために苦しむ、
戦国時代の普通の人間として描いています。
そして次回。
レオンが動きます。
しかしその一歩が、
大友側の狙い通りになるかもしれません。
読んでいただきありがとうございました。




