第11話 恐怖は、人の流れを止める
人は、
刀で斬られる前に壊れる。
恐怖。
不安。
孤独。
流れが止まった時、
人間は弱くなる。
城内の空気が、
再び重くなり始めていた。
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島津軍北上。
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その報せだけではない。
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民の空気が、
明らかに変わっている。
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「大友は終わるらしい」
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「島津には逆らえぬ」
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「もう逃げた方がいい」
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噂が、
静かに広がっていた。
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刀を抜く前に、
心を折る。
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それが、
レオン・バルディアのやり方だった。
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「……気持ち悪い男です」
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ハリーが小さく呟く。
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宗麟。
鑑連。
鑑速。
アルメイダ。
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全員が集まっていた。
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「戦わずして、
こちらを崩そうとしている」
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鑑速が低く言う。
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宗麟は、
静かに地図を見ていた。
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「兵数では、
島津が上だ」
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「そこへ恐怖まで流されれば、
兵も民も崩れる」
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重い空気。
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その時。
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ハリーが言った。
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「だったら、
逆をやればいい」
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全員が見る。
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「逆?」
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「安心を流す」
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宗麟の眉が動く。
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「安心……?」
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「人は、
恐怖だけじゃなく、
安心にも引っ張られる」
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「トップが落ち着いてれば、
周りも少し戻る」
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宗麟は、
静かに息を吐く。
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確かに、
別府から戻ってから空気が変わった。
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家臣たちの目も違う。
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それを、
宗麟自身も感じていた。
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「……では、
どうする」
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ハリーは静かに言う。
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「御屋形様が、
民の前へ出る」
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空気が止まる。
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「危険です!」
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家臣の一人が叫ぶ。
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「今、
御屋形様に何かあれば——」
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だが。
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宗麟は、
静かに笑った。
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「いや、
面白い」
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鑑連が宗麟を見る。
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「御屋形様」
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「今の俺は、
逃げてばかりだった」
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宗麟は、
ゆっくり立ち上がる。
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「恐怖へ飲まれていたのは、
俺自身かもしれんな」
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ハリーは、
その姿を見ていた。
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変わってきている。
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少しずつ。
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宗麟が、
“流れ”を戻し始めている。
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その瞬間だった。
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突然。
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ハリーの視界が揺れる。
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燃える町。
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逃げ惑う民。
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そして。
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宗麟が倒れる光景。
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「……っ!」
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ハリーが壁へ手をつく。
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胸が痛む。
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「おい!」
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アルメイダが支える。
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ハリーは、
苦しそうに息をする。
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「……まだ、
言うなってことか」
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「何が見えた」
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宗麟が聞く。
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だがハリーは、
首を振った。
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「言えません」
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「未来を変える話は、
止められる」
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宗麟は、
静かにハリーを見る。
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この男は、
本当に命を削っている。
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しかも。
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未来を知っているのに、
全部は伝えられない。
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どれほど苦しいのか。
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宗麟は、
初めて少し理解した気がした。
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その時。
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城門の方から、
鐘が鳴る。
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兵が駆け込んできた。
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「御屋形様!!」
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「島津側より、
使者が来ています!!」
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空気が止まる。
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宗麟の目が細くなる。
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「……来たか」
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ハリーは、
静かに目を閉じた。
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流れが、
大きく動き始めていた。
読んでいただきありがとうございます。
ここから、
“戦う前の戦”が本格化していきます。
恐怖。
安心。
空気。
感情。
戦国時代でも、
人間の本質は変わらないのかもしれません。




