第10話 人を数字で見る男
人を救う知識もある。
だが同時に、
人を壊す知識も存在する。
別府から戻った城内は、
以前とは少し空気が違っていた。
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兵が動く。
家臣が話す。
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止まりかけていた流れが、
少し戻っている。
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宗麟の変化は、
想像以上に大きかった。
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「御屋形様、
顔色が違う」
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「最近、
怒鳴られなくなったな」
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廊下の隅で、
家臣たちが小声で話している。
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ハリーは、
静かにそれを見ていた。
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組織は、
空気で動く。
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未来でも同じだった。
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その時。
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アルメイダが、
静かに現れる。
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だが。
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その顔は重かった。
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「……思い出しました」
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ハリーが見る。
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「何をです」
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アルメイダは、
ゆっくり座った。
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「私を追い落とした男です」
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空気が静まる。
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「昔、
南蛮の医術を広めようとした時」
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「一人の男が現れた」
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「知識もあった」
「計算も速い」
「人心掌握も上手かった」
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「ですが——」
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アルメイダの目が冷える。
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「人を、
数字でしか見ていなかった」
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ハリーの背筋に、
嫌な感覚が走る。
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未来で、
何度も見た目。
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効率。
利益。
最適化。
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その果てに、
人間が壊れていく。
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「その男は、
こう言いました」
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アルメイダは、
静かに続ける。
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『弱い者は切り捨てろ』
『感情は無駄だ』
『恐怖こそ、
人を最も効率よく動かす』
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宗麟の目が鋭くなる。
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「……島津に似ているな」
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アルメイダは頷く。
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「だから嫌な予感がするのです」
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その時だった。
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城の外から、
悲鳴が聞こえた。
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「助けてくれ!!」
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全員が動く。
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門の前。
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一人の男が倒れていた。
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商人だった。
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息が荒い。
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顔面蒼白。
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「島津側から、
逃げてきました……!」
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宗麟が近づく。
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「何があった」
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商人は、
震えながら言った。
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「島津軍に、
妙な男がいます……!」
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「戦の前に、
噂を流し」
「不安を広げ」
「裏切りを誘い」
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「人の心を、
先に壊していく……!」
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アルメイダの目が変わる。
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「……間違いない」
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ハリーは、
静かに息を吐く。
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やはり来た。
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未来でもいた。
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人間を、
“管理対象”として見る人間。
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宗麟が低く聞く。
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「名は」
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商人は、
震える声で答えた。
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「レオン……」
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「レオン・バルディアと、
名乗っていました……」
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空気が止まる。
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アルメイダが、
静かに目を閉じた。
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「……やはり、
あの男か」
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宗麟が見る。
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「知っているのか」
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アルメイダは、
ゆっくり頷いた。
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「人を救うために、
知識を使う者ではない」
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「人を支配するために、
知識を使う男です」
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風が吹く。
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ハリーは、
遠くを見る。
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嫌な流れだった。
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この男は危険だ。
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武力ではない。
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思想が危険だった。
読んでいただきありがとうございます。
ここで、
島津側の“知性”が動き始めます。
この作品では、
「力」だけではなく、
“思想”や“空気”も、
戦の一部として描いていきます。




