第21章「七夕に願いを」
【さくらside】
時は流れ、七月になっていた。
先月の月例模試で、ようやくA判定を取ることができた。
気持ちにも、ようやく少し余裕が出てきた。
四月に隆司くんに抱きしめられた時は、
心ここにあらずで、現実をまともに受け止められなかった。
……でも、あれって、人生で初めての“ハグ”だった。
(いまごろ、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……)
さくらはベッドに突っ伏して、ゴロゴロと身悶えする。
(しかも、優しかった……言葉も、抱きしめ方も。
落ち込んでいた私を、丸ごと包んでくれるみたいだった……)
あれから、もう三か月。
LINEのやり取りや、自習室でのちょっとした会話はあったけど、
あの一大イベントにちゃんとお礼も言わず、
気持ちを伝える時間が過ぎてしまっていた。
ようやく今、心の余裕と一緒に、じわじわと“恥ずかしさ”がピークに。
(なにか、お礼……したいな。隆司くんが喜ぶものって、なんだろう?)
女子高にいると、男子が好きそうなことってちょっとわかりづらい。
(やっぱり、ごはん? 食べ盛りだし……)
でも、ふと思い出した。
──初詣のときに、買い忘れた「合格祈願」のお守り。
(そうだ、自分で作ろう。手作りのお守り!)
その場でスマホを開いて、七夕祭りの日を検索。
S商店街で開催されることがわかった。
「隆司くん、七夕祭り、一緒に行かない?」
すぐに返事が来る。
「いいね! しばらく出かけてなかったし、嬉しいよ。七夕、楽しみにしてる!」
(やった!)
「実はもう調べてあるの。七月七日にS商店街であるんだって。
短冊に、合格祈願も書きたいな」
「そっか、あそこなら大きい笹飾りとか出しそうだな。
了解!あと四日かー、楽しみだな!」
(あと四日!? お守り急がなきゃ!)
翌日、さくらは100均で材料を買い、手作りのお守り作りに没頭した。
フェルトを切って縫って、何度も失敗してやり直して……
気づけば完成は夜中だった。
(でも……私にしては上出来!)
ちなみに、自分の分もお揃いで作った。
外は、蒸し暑い初夏の風が吹いている。
さくらは完成したお守りを両手で丁寧に持ち、
静かに、願いを込めた。
(二人とも、第一志望校に合格できますように──)
【隆司side】
七月七日。七夕祭り当日。
駅で待ち合わせた二人は、S商店街へと向かっていた。
商店街は、普段とはちがって小さな屋台がずらりと並び、
焼きそばや和菓子、ジュースやスイーツまで、食べ歩き仕様でにぎわっていた。
さくらと隆司は、みたらし団子をシェアしたり、
果物屋のミニパフェを半分こして、笑い合う。
(よかった。さくら、元気そうで)
あの四月の姿を思い出すと、今こうして笑ってくれていることが本当に嬉しい。
「ねえ、もしかして……模試の成績、上がった?」
「えっ……なんで分かったの?」
「なんとなく。表情が晴れてるっていうか、そんな感じ」
さくらは照れながら頷く。
「うん、またA判定に戻れたの。
……四月のあの日、隆司くんが抱きしめてくれて、優しい言葉もくれて。
あのときは余裕なさすぎて反応できなかったけど……
すごく嬉しかった。本当にありがとう」
その言葉に、隆司の胸もじんわりと温かくなる。
「よかった……喜んでもらえたなら、それで十分だよ。
でもさ、さくらって完璧主義だからさ。B判定ってだけで、落ち込みすぎじゃない?」
「うん、それもわかってきた。
あとから冷静に考えて、Bならまだ合格圏内だって気づけた。
これからは、万一落ちたって“また取り返せばいい”って思えるようになったの。
それも、隆司くんがあのとき支えてくれたから」
「……さくらの実力があってこそだよ。
俺もね、さくらと勉強するようになって、
“恋人”だけじゃなくて、“仲間”って感覚が強くなった。
だから、遠慮せずに頼って。俺、彼氏兼・勉強仲間だからさ」
「ふふっ、頼もしいなあ。じゃあ、これからも甘えさせてもらうね」
歩いていくと、大きな笹飾りが見えてきた。
その脇に置かれたテーブルには、色とりどりの短冊とペン。
二人はそれぞれ、
「第一志望校に合格できますように」
と願いを書き、短冊を枝に結んだ。
そのとき、さくらが鞄から何かを取り出した。
「……はいっ、これ。合格祈願のお守り。
ちょっと不格好だけど、私とお揃いなんだ」
ブルーを基調にした、小さな手作りのお守り。
さくらがそっと、隆司の手のひらに乗せてくれる。
(……やばい、嬉しすぎる。彼女からのお守りとか……最高すぎる)
「ありがとう、めっちゃ嬉しい!
しかもお揃いとか、めっちゃいいじゃん。すごく気に入ったよ」
さくらはちょっと照れながら、くすっと笑う。
「不格好かなって心配してたんだ。でも、喜んでもらえてよかった……」
「全然、不格好なんかじゃないよ。
むしろ、世界に一つしかないし、手作りってあったかい。
スマホカバーにストラップとしてつける!」
隆司はさっそくスマホを取り出し、
その場でストラップに取り付けた。
「やだ……見られたら恥ずかしいじゃん……」
口ではそう言いながらも、さくらの顔はふわりと嬉しそうにほころんでいた。
「いいの。俺が大切に思ってるんだから。それで十分。
絶対、第一志望校、合格しような」
「……うん」
さくらは小さく頷き、少し潤んだ目で笑った。
初夏の夜、笹の葉が風に揺れる。
その下で、ふたりは静かに、強く──未来への決意を誓い合った。




