第15章 「幸せの余韻」
【さくらside】
(きゃーっ、隆司くんとキスしちゃった……どうしよう……)
驚きと嬉しさが混じり合って、頭の中はふわふわ。
軽い興奮状態のまま、どう帰ってきたのかもよく思い出せない。
気がつけば、もう家の前に立っていた。
手をそっと離すと、隆司が静かに言った。
「さくら、今日はありがとうな。最高の想い出がまた一つ増えた。
一つ目はもちろん、あのガラス石を拾った日な」
「うん……今日はすごく驚いたけど、本当に本当に嬉しかった。
また一緒に、どこか行けるといいね」
まだ夢見心地なまま、一生懸命に言葉を探して応える。
「おう、また行こうな!プランは俺に任せとけ!」
隆司の頼もしい声が、ふわふわしていた意識を少しずつ現実に引き戻してくれる。
「楽しみにしてるね。じゃあ、またLINEするね」
また二人だけの世界に、もう一度浸りたかった。
「じゃあな。風邪ひくなよ」
どこまでも優しいその言葉が、胸の奥にじんわり染みる。
「うん。隆司くんもね」
そう言って、名残惜しさを胸に抱きながら、さくらは家の扉を開けた。
「ただいまー」
玄関でブーツを脱ぎながら、まだふわふわした気持ちが続いていた。
するとリビングから、にこやかな声が飛んできた。
「最近また、隆司くんと仲がいいのね。付き合ってるの?」
リビングのドアの隙間から顔をのぞかせる母の笑顔。
(えっ!? な、なんでバレてるの……!)
とはいえ、いつも送り迎えしてもらってるし、そりゃ気づくよね……。
「……まぁ、そんな感じ」
動揺を隠しつつ、なるべくそっけなく答える。
「ふ〜ん。隆司くんなら安心ね」
(何が“安心”なの……?)
ちょっともやっとしながらも、隆司の母と自分の母が昔から仲が良かったのを思い出す。
最近もよくお茶してるらしいし、情報は筒抜けかも。
(よりによって……キスした日に限って……。
まさか、監視カメラとかついてたりしないよね?)
部屋に戻ると、気を落ち着けるようにゆっくりと制服を脱ぐ。
そして、隆司にもらったブレスレットを取り出し、
ガラス石のポーチの横に、そっと飾った。
(……着けていたいけど、校則違反だし、家の中でもバレたら何言われるか……)
だから今日は、飾っておくだけにしておこう。
部屋着に着替えて、夕ごはんまでの時間を使って少しだけ勉強をすることにした。
デスクの上、ブレスレットとガラス石が並んで、電気に照らされてきらりと光っている。
まるで、ふたりの未来をそっと照らしてくれているように——。
【隆司side】
マンションに帰り、自室のドアを閉めた瞬間——
(うぉぉぉぉぉ……!ついに……ついに俺にも春が来た!
さくらとキスしちゃったあぁぁぁぁ!!)
喜びが爆発する。
唇の柔らかさ、さくらの表情、全部が頭から離れない。
(うおおおお……マジで……最高……! さくら、尊い……!)
こうなると隆司はもう手がつけられない。
完全に興奮状態のオス。いや、男子高校生としてはごく正常な反応である。
と、そこへリビングのキッチンから母さんの声が飛んできた。
「ごはんよー!」
部屋を出ると、ちょうど廊下で弟の渉と鉢合わせた。
「兄ちゃん、顔赤くない?風邪?」
何も知らない純粋な心配。逆に刺さる。
「いや、筋トレしてた。気遣いサンキュ」
兄貴っぽく振る舞って誤魔化す。
夕食のテーブルには、クリスマス仕様のメニューがずらり。
ジューシーなローストチキン、山盛りのフライドポテト、締めにはクリスマスケーキまで。
「いただきます!……母さん、このチキン、神ってる!」
思わず本音がこぼれる。
が、その瞬間——。
「そういえば隆司、さくらちゃんと付き合ってるの?
最近よく一緒に歩いてたり、送り迎えしてるって聞いてるわよ」
(ぶぅぅっっっ……!!あっぶね!チキン噴き出すとこだったわ!)
慌てて水をひと口。ゴクリ。
「な、なんだよ母さん。急に……藪から棒すぎるだろ。渉もいるしさ……」
「見たの、渉だから。ぜ〜んぶ知ってるんですって」
母、容赦なし。情報の出所を即暴露。
「兄さん、もうバレてるんだから、隠さなくていいって」
渉、あっさりトドメを刺す。
「……そういうこと。さくらちゃんのお家とは昔から仲良かったし、
お母さん、安心だわ~」
(お、おいおい!勝手に納得すんなーっ!!)
もう、立場なし。
「……あっ、そう。じゃあ、そういうことで」
できるだけ平静を装ってみるが、どう考えても動揺MAXである。
(俺以外、みんな敏感すぎだろ……くっそー!)
そんな自分の素直な性格が、今はちょっと恨めしい。
夕食を食べ終えると、すぐに席を立つ。
「ごちそうさまー。俺、二階で勉強してくる!」
逃げるように自室へ。
そして恒例の——「ゴンッ!」壁に頭突き。
(はぁ……やっちまった。けど、まぁ……親公認ってことだよな?)
(堂々としてればいいってことだろ? よっしゃ、そういうことにしよう!)
この“前向きさ”、それが隆司の良さでもある。
机の上には、さくらにもらったマフラー。
そっと手に取って、しばらく眺めてから首に巻く。
柔らかくて、ぬくもりがあって——まるで、さくらそのものみたいだ。
(このまま夢でも、キスできたら……)
想像しただけで、頬がほんのり染まっていく。
静かなクリスマスの夜。
プレゼントのあたたかさが、今日という一日をそっと包んでいた。
心にあかりを灯したふたりを、優しく見守るように——。




