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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第三章 俺×過去=探し出します。〜過去探索編〜
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98話 俺×空白=会えません。

あの一件から、数日が経っていた。


表面上は、何も変わっていない。教室も、生徒会も、いつも通りに回っている。誰かが騒ぐわけでもなく、特別な出来事が起こるわけでもない。


それなのに。


真守の中では、ずっと何かが引っかかっていた。


はっきりとした形はない。ただ、胸の奥に小さな棘のようなものが残り続けている。触れれば痛むほどではないのに、意識を向けるたびに確かにそこにあるとわかる、そんな違和感だった。


原因は一つじゃない。


結城のこと。あの踊り場での会話。ほんの少しだけ見えた、弱さのようなもの。そして、あの日からぱったりと姿を見せなくなった祇園のこと。


どれも決定打にはならない。けれど、どれも無視できない。


そんな状態のまま、今日も一日が終わろうとしていた。


放課後、生徒会の作業を終えて外に出ると、空はすでに夕焼けから夜へと移り変わりかけていた。

昼間の熱が少しだけ残っている空気の中に、夜の涼しさが混じり始めている。


「……」


特に理由もなく、足が止まる。


帰るだけなら、そのまままっすぐ進めばいい。けれど、体は自然と別の方向へ向いていた。


考えるより先に、足が動いている。


そのまま歩き出すと、行き先はすぐにわかった。


あの公園だった。


何度も通った道を、いつもより少しだけゆっくりと歩く。街灯がぽつぽつと灯り始めていて、昼とは違う静けさが街に広がっていた。


途中で何度か足を止めそうになる。それでも、引き返す理由は見つからなかった。


結局、そのまま公園まで来てしまう。


視界が開ける。見慣れた景色。

ベンチ。街灯。遊具。

そして——


誰もいなかった。


「……」


足が止まる。


わかっていたような気もするし、どこかで期待していたような気もする。


あそこに行けば、当たり前のように祇園がいる。そんな錯覚が、いつの間にか自分の中にできていた。


けれど現実は違う。


ベンチは空いたまま、静かにそこにあるだけだった。


「……そりゃ、そうか」


小さく息を吐く。


時間を決めているわけでもない。連絡を取っているわけでもない。ただ、偶然会っていただけだ。


会えない日の方が、普通なのかもしれない。

それでも、足は自然とベンチの方へ向いていた。


腰を下ろすと、少しだけ冷たい感触が伝わってくる。


「……」


しばらく、そのまま座っていた。


何かを待っているわけでもない。ただ、立ち上がるきっかけを見失っただけかもしれない。


夜の公園は、思っていたよりも静かだった。


遠くの道路を走る車の音が、かすかに聞こえる。風はほとんどなく、木の葉もほとんど揺れていない。


静かすぎるくらいの静けさ。


「……こんな感じだったか」


ぽつりと呟く。


これまでも同じ場所にいたはずなのに、印象が少し違う。


それはきっと、隣に誰かがいたかどうかの違いだった。


祇園がいるときは、この静けさも気にならなかった。ただ話しているだけで、時間が流れていた。


けれど今は、その静けさがそのまま残る。


「……」


ふと、周囲に意識を向ける。


誰かの気配。視線のようなもの。

一瞬だけ、そんなものを感じた気がした。


反射的に顔を上げる。


「……?」


見回す。


誰もいない。


遊具の影にも、木の陰にも、人の姿はなかった。

ただ、街灯の明かりが淡く地面を照らしているだけ。


「……気のせいか」


そう呟いてみる。


けれど、完全には消えない。

何かが、少しだけズレている。その感覚だけが残る。


「……」


しばらくして、真守は立ち上がった。


これ以上ここにいても、何かが起きるわけじゃない。


それはわかっている。


それでも、ほんの少しだけ後ろ髪を引かれる感覚があった。


一度だけ振り返る。


空のベンチ。


そこには、やっぱり誰もいない。


「……帰るか」


小さく呟き、そのまま公園を後にする。


来た道を戻りながら、さっきの違和感をもう一度思い返す。


気のせいで片付けるには、少しだけ残る感触。


けれど、確かめる方法もない。

結局、そのまま家へと戻るしかなかった。


玄関を開けると、いつも通りの空気が迎える。


「おかえりー」


真希那の声。


「……ただいま」


自然に返す。


日常は変わらない。


それが逆に、少しだけ現実感を取り戻させる。


軽く会話を交わし、そのまま自室へ戻る。

ベッドに腰を下ろすと、体の力が少し抜けた。


「……」


静かな部屋。


目を閉じる。


今日、一日を振り返る。


特別なことは何もなかった。それなのに、胸の奥の違和感は消えていない。


祇園には会えなかった。それだけのはずなのに。


「……」


あの公園で感じた、わずかな気配。

気のせいだと思いたい。

けれど、どこかでそれを否定しきれない自分もいる。


何も起きていない。

だからこそ、余計に不安になる。


静かなまま、何かが進んでいる気がして。その感覚だけが、ゆっくりと深くなっていった。

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