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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第三章 俺×過去=探し出します。〜過去探索編〜
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82話 俺×不安感=拭えません。

昼休みのざわめきが、少しずつ教室から引いていく。


食堂から戻ってきた空気は、どこか妙に重かった。

何かが変わったわけじゃない。机も、椅子も、周りの連中も、いつも通りのはずなのに——どうしてか落ち着かない。


「……」


席に座りながら、無意識に息を吐く。

その理由は、考えるまでもなくはっきりしていた。


「まも君」


すぐ横から、声がする。


「……なんですか」


できるだけいつも通りに返すが、自分でも少しだけ硬いとわかる。

それに対して結城は気にした様子もなく、軽く笑った。


「お昼一緒にいてくれて、ありがとね」


「……別に」


短く返す。

それだけのやり取りなのに、妙に距離が近い。


視線を感じて、思わず横を見ると——結城がまっすぐこちらを見ていた。

逃げ場のないような視線だった。


「……」


目が合うと、彼女は少しだけ楽しそうに笑う。

その表情に、説明のつかない引っかかりが残る。


「まも君ってさ」


「はい」


「優しいよね」


「……普通です」


反射的に否定するが、結城は首を横に振る。


「普通じゃないよ」


あっさりと言い切られた。

その言い方があまりにも自然で、まるで最初からそう知っているみたいで——


「……」


言葉に詰まり、視線を逸らす。

その瞬間、コツン、と机が軽く揺れた。


顔を上げると、前の席の白ヶ崎が無言でプリントを差し出していた。


「これ」


「……あ、ありがとう」


受け取りながら顔を見ると——睨まれていた。


「……」


「……」


何も言わないままの圧だけが刺さる。理由はわかる。わかるけど、怖い。


「……なに」


「いや、なんでも」


「ならいいけど」


そう言いながらも、その視線は横——結城の方へ向けられていた。完全に警戒している。


その空気の中で、当の結城だけがまるで気にしていない様子で、また口を開く。


「ね、まも君」


「……はい」


「放課後って暇?」


「……いや、生徒会あります」


少し間を置いて答えると、「そっか」とあっさり引いた。

それが逆に、妙に引っかかる。


「じゃあまた今度だね」


「……」


軽すぎる。

さっきまであれだけ距離を詰めてきていたのに、まるで何事もなかったかのように引く。


「……」


わからない。


そのとき、背後から聞き慣れた声が割り込んできた。


「おーい楽々浦」


神宮丸だ。


「今日の授業つまんなすぎだろ」


「お前だけだろ」


「いや絶対みんな思ってるって」


勝手に盛り上がりながら笑うその軽さに、ほんの少しだけ肩の力が抜ける。


「にしてもさ」


神宮丸がちらっと横を見る。


「結城ともうそんな距離なのかよ」


「違う」


即答する。


「いやでも“まも君”って呼ばれてたぞ?」


「……」


言葉が詰まる。


「へぇ〜」


面白がるように笑う神宮丸に、「モテ期じゃん、楽々浦」と軽くからかわれ、思わずため息が出る。


「違うって言ってるだろ」


「はいはい」


流される。


そんなやり取りの中でも、消えないものがあった。


「……」


横からの視線。

結城は、ずっとこちらを見ている。


授業が進む。時間は確実に流れているはずなのに、その違和感だけが取り残されるように、ずっとそこに残っていた。


やがて放課後のチャイムが鳴り、教室の空気が一気にほどける。椅子を引く音や話し声が重なり、いつもの日常に戻るはずなのに——


「……」


鞄を持つ手が、少しだけ速くなる。

理由はわかっている。ただ、ここから離れたいだけだ。


「まも君」


呼ばれて、思わず肩が揺れた。


振り返ると、結城がすぐそこに立っている。


「もう生徒会行くの?」


「……はい」


「少しだけお話し、しない?」


あまりにも自然に言われる。断りづらい距離だった。


それでも——


「……俺、生徒会あるんで」


少しだけ早口になる。


「そっか」


また、あっさり引いた。


「じゃあまたね」


軽く手を振る。


それだけ。


それだけなのに、なぜかその場に何かが残る。


「また明日、まも君」


その一言だけが、やけに耳に残った。


廊下を歩く足が、無意識に早くなる。

別に追われているわけじゃない。それでも、離れなければいけない気がした。


生徒会室の前に立ち、ドアノブに手をかける。


「……」


一瞬だけ止まる。


頭の中で、さっきの声が何度も繰り返される。


——まも君。


「……なんで」


小さく呟く。


そして、そのままドアを開けた。


「失礼します」


中に入ると、紙をめくる音とペンの走る音が静かに響いていた。

いつもの空気。変わらない光景。


「楽々浦くん」


葵の声が届く。


「お疲れ」


「……お疲れ様です」


それだけで、少しだけ肩の力が抜けた。


「どうかした?」


「……いえ」


すぐに答える。


「なんでもないです」


本当は、なんでもなくない。

でも、それをどう説明すればいいのか、自分でもわからなかった。


席に座り、書類を手に取る。集中しようとする。いつも通りに戻ろうとする。


それでも——


「……」


頭の奥に、残っている。


あの呼び方、あの距離、あの違和感。


ペンが止まる。

小さく息を吐く。そして、ふと浮かんだ疑問が消えない。


——なんで、あいつはあの呼び方で


その答えのない問いだけが、静かに残り続けていた。

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