表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
第三章 俺×過去=探し出します。〜過去探索編〜
PR
82/224

81話 俺×昼休み=味がしません。

チャイムが鳴った瞬間、教室の空気が一気に緩んだ。

張り詰めていたものが解けるように、生徒たちが一斉に動き出す。

弁当を広げる音、椅子が引かれる音、誰かの笑い声が混ざり合って、いつもの昼休みが始まる。


その中で、真守はゆっくりと息を吐いた。


(……疲れた)


午前中だけで、妙に消耗していた。


原因はわかっている。


隣の席、視線、距離感。


考えないようにしても、意識から外れてくれない。


「まも君」


「……っ」


すぐ横から落ちてきた声に、肩がわずかに揺れる。


「一緒にご飯、食べよ?」


軽い調子だった。けれど、どこか逃げ場のない響き。


「……いや、俺は」


言葉を選ぶ。できるだけ自然に、距離を取るように。


「今日はいいです」


はっきりと断る。

それで終わるはずだった。


「そっか」


あっさり引いたように見える。


だが——


「じゃあ、どこ行くの?」


すぐに続く。


「食堂?それとも教室?」


「……」


逃げ道を塞がれる。


「別に一緒じゃなくてもいいよ?近くでも」


柔らかい声。でも確実に、距離を詰めてくる。


(……なんなんだよ)


拒否しているのに、拒否させてもらえない感覚。


そのとき。


「おーい楽々浦!飯行こうぜ!」


後ろから明るい声。


神宮丸だ。


振り返ると、いつも通りの調子で手を振っている。その軽さに、ほんの少しだけ救われた気がした。


「……行く」


短く答える。

それで流れを変えられると思った。


「よっしゃ!今日は食堂だな——」


「じゃあ、私も」


結城が自然に立ち上がる。


「お、結城も来るのか?」


神宮丸が普通に反応する。


「ああ、そりゃそうだよな。同じクラスだし」


軽く笑う。


さっきまでの違和感が嘘みたいに、あっさり受け入れている。


(……そうだよな)


こいつは事情なんて知らない。

ただの転校生として見てるだけだ。


「じゃあ三人で——」


「ちょっと待って」


空気を切る声。


振り返るまでもない。白ヶ崎だ。

歩いてくるだけで、周りの温度が変わる。


「……どこ行くの?」


表情はいつも通り。でも声が低い。


「食堂」


真守が答える。


「……ふーん」


視線がゆっくり動く。


結城へ。


結城は動じない。むしろ、ほんの少しだけ笑っていた。


「一緒に行くの?」


白ヶ崎の問い。


「うん」


結城は即答する。


一瞬、沈黙。


(……やめろって)


空気が重い。


神宮丸が困ったように頭をかく。


「いやー、なんかすげぇメンツだな今日!」


無理やり明るくする。けど、空気は変わらない。


「……別にいいけど」


白ヶ崎が一歩前に出る。結城との距離が詰まる。視線がぶつかる。


静かに火花が散るような感覚。


「行くんでしょ?」


そのまま先に歩き出す。


結局、四人で食堂へ向かうことになった。


昼の廊下は賑やかだった。でも、この四人の周りだけ妙に静かだった。


神宮丸が何度か話を振る。どうでもいい話。

軽い冗談。それでも。


「……」


結城は真守を見ている。


ずっと。


そして。


白ヶ崎は、それを見ている。


(……地獄かよ)


食堂に着く頃には、精神的にかなり削られていた。


席に座り、神宮丸が慣れた手つきで注文をまとめる。


「俺カレーな!楽々浦は?」


「……なんでもいい」


「適当すぎだろ」


笑いながらメニューを開く。

その間も、視線は消えない。逃げ場もない。


料理が目の前に来ても、状況は変わらなかった。


箸を動かす。味はほとんどわからない。

ただ、時間だけが過ぎていく。


そんな中で。


「ねぇ」


結城が口を開く。


「まも君ってさ」


その呼び方だけで、意識が引き戻される。


「昔からそんな感じなの?」


「……は?」


意味がわからない。


「優しいっていうか」


少し首を傾ける。


「放っておけないタイプ?」


「……別に」


短く返し、深く考えないようにする。


でも。


その言葉に、妙な引っかかりが残る。


"昔から"


まるで知っているみたいな言い方。


「へぇ」


結城が小さく笑う。それ以上は言わない。

その沈黙が、逆に重い。


食事が終わりに近づく。


そのとき。


「おーい!」


明るい声。赤坂だ。


「話題の転校生いるって聞いてさ!」


そのまま近づいてくる。


「どの子?」


真守を見る。


「……この人」


適当に指さす。


「紹介雑すぎない?」


結城が少し不満そうに言う。


「ひどいよ、まも君」


その一言。


「……え?」


赤坂の表情が、一瞬だけ止まる。ほんのわずかに、目が見開かれる。気のせいかと思うほど短い違和感。


「まも君?」


軽く繰り返す。


いつもの調子のまま。けれど、ほんの少しだけ声が硬い。


「……へぇ」


小さく笑う。

いつも通りの、明るい笑顔。


「そっか、もう仲良くなってるんだね」


自然な言葉。


自然な表情。


なのに——


どこかだけ、噛み合っていない。


「ごめん、ちょっと用事思い出した!」


そのまま、軽い調子で手を振る。

振り返らずに、その場を離れていく。


「……」


さっきまでと何も変わっていないはずなのに。なぜか、胸の奥に違和感だけが残った。


「……」


場が固まる。


神宮丸も、白ヶ崎も、何も言えない。

結城だけが、その背中を静かに見ていた。


そして。


「……怒らせちゃったね」


ぽつりと呟く。どこか他人事みたいに。


理解が追いつかない。

ただ一つだけ確かなのは——


何かが、確実にズレ始めている。

そんな感覚だけが、胸に残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ