7話 俺×生徒会勧誘=勘弁してください。
「……い、今なんて?」
「だから、君を生徒会に呼び込もうとしているんだって」
会長は、まるで当然のことを言うみたいに穏やかな声でそう言った。
その瞬間、真守は嫌というほど周囲の視線を感じた。
痛い。
ものすごく痛い。
そりゃそうだ。この場にいる一年生の中には、生徒会長を一目見たくてクラス委員に立候補したやつだって少なからずいるはずだ。
いや、もしかしたら白ヶ崎以外、みんなそうなのかもしれない。
だとしたら、今ここで起きていることは、その人たちにとって夢みたいな展開ということになる。
(最悪だ……)
こんな羨望の視線を浴びて喜ぶタイプじゃない。むしろ今すぐ消えたい。
「あはは……会長はご冗談がお上手で」
とりあえず、適当に返してみる。
ここでの理想は自然消滅。流れでうやむやになって、なかったことになることだ。
……だが。
会長はそんな都合のいいことを許してくれそうになかった。さっきから、真っ直ぐな目でずっとこっちを見ている。
「僕は冗談なんか言わないよ。全て有言実行してきた男だからね」
とんでもない自信だった。
(この人、国どころか世界変えられるんじゃないか……)
なんなら宇宙もいけそうな勢いだ。
だが、ここで引き下がったら、俺の高校生活の計画はすべて白紙になる。そんなのは困る。
どうにかして、この話を流すしかない。
「か、会長。その話は、また次の機会にゆっくり決めるっていうのはできないんでしょうか?」
必殺・延期作戦。
今ここでこんな話を続けていたら、後ろに控えている生徒たちの自己紹介が進まない。
そこを察して、会長もきっと引いてくれるはず——
「いや、今ここで決めてくれ」
……ですよね〜
とは口に出せなかったが、内心ではそう叫んでいた。意思が硬すぎる。
「ちょ、ちょっと待ってください!俺はまだこの高校に来て間もないですし、こういうことはちゃんと考えたくて……」
真守は申し訳なさそうに頭を下げる。できるだけ丁寧に、角が立たないように。
「はぁ……また君は嘘をついているね。本当はやりたくないんだろう?はっきり言ったらどうだい」
「……」
やっぱりバレていた。
まあ、そりゃそうか。
普通に考えて、この高校の絶対的存在からの勧誘をためらうやつなんてそうそういない。
それをためらっている時点で、全部お見通しだったのだろう。
だが——
(逆に言えば、逃げ道を作ってくれたってことだよな?)
会長自ら“本音を言え”と言った。だったら、ここは勝負に出るしかない。
真守は覚悟を決めた。
「はい。やりたくないです」
きっぱりと言い切る。
「全力で断らせていただきます」
「……そっか」
会長が小さく呟く。
さすがに、ここまで言えば諦めてくれるだろう。そう思ったのに。
「だが、僕は諦めないよ」
「……え?」
「さっき、自分で有言実行する男だと言ってしまったからね。君をどうにかして生徒会に引き込むよ」
この人、絶対折れねぇ……
思わず本音が漏れそうになる。ここまで来ると、もうどうしようもない。
白ヶ崎に助けを求めようかと一瞬思う。
けれど、どうせ俺のことなんて助けてくれないだろう。
それでも、一か八かで視線を向けてみる。
「なに、こっち見てるのよ。気持ち悪い」
「……はい」
やっぱりダメだった。
(終わった……)
もう諦めて生徒会に入るしかないのか。
真守史上、究極の選択が迫っていた。
どうすればいいんだ——
そんな重たい空気を、一瞬で切り裂く出来事が起きた。
ガラガラッ!!
大きな音を立てて、会議室の扉が勢いよく開く。
「遅れてしまい申し訳ございません!ただいま二学年のクラス委員、到着いたしました!」
小柄な女の子の、やけに威勢のいい声が会議室いっぱいに響いた。
「あ、あぁ……君たちか」
さすがの会長も、少し驚いたように目を瞬かせる。会議室に一瞬だけ沈黙が落ちた。
空気が切り替わる。
それまで会長のペースで進んでいた流れが、ここでわずかに崩れた。
(助かった……のか?)
いや、まだわからない。
会長がこのまま話を流すのか、それとも再開するのか。
見ものだな——
そう思った、そのときだった。
「……あれ?」
真守は、もう一度扉の方を見る。
そこには運命と言っていいほどの出来事が、立っていた。
「……ま、まじかよ」
二学年クラス委員の先頭にいた、その女の子を凝視してしまう。
相手も、こちらを見ていた。
「……えっ、真守……?」
その声。
その顔。
間違いない。
「あんた、先輩のこといきなりジロジロ見ちゃって気持ち悪いわよ」
白ヶ崎のいつもの罵倒が飛んでくる。だが、真守の耳には入らなかった。
頭の中が、それどころではない。
「ちょっと、あんた聞いてるの?」
「……」
「チッ……」
無視された白ヶ崎が、露骨に不機嫌になる。そして次の瞬間、机の下から真守の足を蹴飛ばしてきた。
「いっ!?痛っ!」
そこでようやく我に返る。
「ちょっと、あんたいい加減にしなさいよ!人のこと無視しといて何その態度?」
白ヶ崎は完全にご立腹だった。
だが、そんなことより、真守の目の前にいる現実の方が、何倍も衝撃的だった。
「……なんで」
理由は一つしかない。
二学年クラス委員の代表として入ってきた、その先頭の女の子。
まさかの——
入学式の日にぶつかった、あの先輩女子生徒だったのだ。




